第9章 夏休み
と思い安堵したのも束の間、
「なぁ鈴。…夜は覚悟しておけよ」
「…!?え…っ」
それだけ言い残し、彼は出ていってしまった。
よ、夜…覚悟って…
またしても今度は別の可能性を思い浮かべ、しかしすぐ頭を振って否定する。
ないないないない、いくらなんでもそれは!ない!ないよ絶対!だって私たちまだ付き合って3ヶ月ちょっとだし高校生だしこの家にはご両親も兄弟もいるしないないない。絶対ない!
…でも…覚悟……
「…気になること言わないでよ…おそ松くんのバカ…!」
***
お風呂から上がり、私は二階のみんなの部屋で大の字に寝そべっていた。
夜…覚悟…夜…覚悟…
私の頭の中では、さっきからずっとその言葉ばかりぐるぐると回っている。
きっといつもの軽口の延長に違いない。彼は人をからかうのが大好きなお調子者だから、深く考えたら負け。
そう何度も自分に言い聞かせているのに、どれもいまいちしっくり来なくて、その度に口からため息が洩れる。いっそ早く帰ってきてほしい…
泊まるといっても、なんの抵抗もなかった。おじさんやおばさんがいてくれたおかげで、来たばかりの時に感じてた緊張や恥ずかしさもどこかにいってしまったし。
男の子とはいえ、みんな大切な友達。ただその中に1人、彼氏が混じっているというだけで。
…私が意識しなさすぎなのかな。みんながいるから安心しちゃってた?
もしかして、おそ松くんがお泊まりを言い出したのはそういう…
ううん、そんなはずないよね!確かに彼はデリカシーないし度々下ネタ発言するし自分で性癖暴露するほどの逸材ではあるけど、これまでの行動から推測するに根はかなり誠実だもん。
手を繋ぐとか、抱きしめるとか、軽くキスするとか、その程度のことしかしたことがないし、それ以上を求められたこともない。
今日は1日通して少し様子がおかしかったし、もし本気で何かやましいことを考えているんだとしたら…
「に、逃げようかな…それか他の誰かに助けを求めるとか…」
6人全員で共謀しているとも限らないけど。うわぁ、そうなったらもう私に抵抗する術はないよ…!
「…おそ松くん…」