第9章 夏休み
あまりに唐突な爆弾発言に、私の心臓がこれでもかというほど大きな音を立てる。ちらっとみんなの方を見遣ってみるけど、食べるのに夢中でこっちは完全無視。こ、これじゃ助けも呼べないよ。
…けど嫌じゃ…ない。
私はとうとうのぼせてしまったのだろうか。恥ずかしさはあるけど、今は目の前の彼のことしか考えられない。
みんなからはよく、「鈴って兄さんにゾッコンだよね」と言われてきたけど、改めてそうなんだと自覚する。
瞳を閉じて、彼からのキスを待つ。…でもいつまで経っても唇にあの柔らかな感触が降りてこない。なぜだか不思議に思い目を開けると、彼は真っ赤な顔をして固まってしまっていた。
「おそ松くん…?」
「…やー…鈴って拒まないよなぁって。可愛すぎて辛い」
「!」
お、おそ松くんが…照れてる。
いつも余裕そうなのに、やっぱり今日の彼は一段と様子がおかしい。
「…キス、してくれないの?」
「やっぱやめとくわ。後ろからドス黒い視線を感じるし」
見ると、さっきまで気付いてなかったはずのみんなが、じーっとこちらを凝視している。こ、怖い…!
「ってわけで、あいつらに混ざるか!」
「あっ…」
彼の体が離れてしまい、私は思わず手を伸ばす。
スキンシップが激しいわりには、離れる時はあっさりで…それがとても名残惜しい。
伸ばした手を引っ込める。我慢我慢…今はみんなもいるんだから。