第9章 夏休み
こうなったおそ松くんは質も諦めも悪いので、私は素直に彼の前に回り、腕を掴む。そして力いっぱい引っ張ってみるも…びくともしない。
「うー!」
「ほら鈴、がんばってー」
「も、もう少し……きゃあっ!」
踏ん張っていた足が石で滑り、バランスを崩す。思わず掴んでいた手を離してしまい、そのまま川にダイブ…
しそうになったものの、その前に彼が素早く立ち上がり、私の体を抱きかかえるように支えてくれた。
「っと、あっぶねー」
「!」
付き合い始めて、はや3ヶ月。こういう風に助けてもらったり、男らしい仕草を見せられることに、未だに私は慣れていない。
「だいじょーぶか鈴ー。お、顔真っ赤じゃん。日焼けした?」
「ちゃんとクリーム塗ってるもん!それに私が引っ張る必要なかったよね?!」
「あはは、んなむくれんなってー。ま、可愛いからいいけど」
歯を見せて愉快そうに笑う彼に見惚れてしまい、それ以上抗議の言葉が紡ぎ出せなくなってしまう。ほんと、反則だよ…
ずっとこのままだと心臓が爆発しそうだったので、私は彼から離れようとする。でも動く前に今度はより一層強く抱きしめられてしまった。
「あれ、逃げんの?まぁまぁ、どうせだからもうちょいいちゃついてようぜ」
「ひゃっ」
耳元でわざと低い声で囁かれ、心臓と共に私の体が大きく跳ねる。ただでさえ太陽の光を背に受けて暑いというのに、別の熱さでのぼせてしまいそうだ。
「お、おそ松くん…今はその、ば、バーベキューやろうよ。ね?私たちの食べる分なくなっちゃう…」
消え入りそうな声で訴えてみるも、彼は抱きしめる力を緩めてはくれない。
…な、なんか変だよ、今日のおそ松くん。付き合い始めた頃からスキンシップは過剰だったけど、人目は一応気にしてたはずなのに。
「平気平気、あとでデザートもあるからさ。弟たちのを横取りすれば足りるって」
「そ、そんなのだめだよ!」
「俺は鈴といちゃつきたいのー。ってわけでー…キス、しよ?」
「ふぇっ!?」