第9章 夏休み
「ありがとう、イッチー!私がお子さまなおかげでいいものが見れました!」
「おっ、お前…!」
わなわなと震えるイッチーがなんだか可愛くて、ますます顔が綻んでしまう。
…私、イッチーが笑ってくれたのがこんなにも嬉しいんだ。
おそ松くんがいつも笑顔だから、つい比べちゃうのかな?ううん、それだけじゃない気がする。
何より、例え一瞬でも見せてくれた彼の笑顔が、目の裏に焼き付いて離れない。いや意識的に焼き付けたのだけど、なんだか…
「っ…ほら、駅着いたから。僕帰る」
「あ!ま、待って!」
急いで自転車に跨がろうとするイッチーの腕を引く。彼はまだ照れたまま。
「…離せよ、お子さま」
あちゃー、不機嫌そう…いつぞやの絶対零度の睨み、再び…!
でも私は怯まない、怯まないんだから!
「怒らないで聞いて?あのね、イッチーはもっと笑ったほうがいいと思う!」
「…は?喧嘩売ってんの?」
「ち、ちち違う違う!イッチーの笑顔ね、なんていうか…可愛い…んー、じゃなくて、母性をくすぐられる…でもなく…うー、うー…!」
一生懸命頭をひねってぴったりの表現を見つけ出そうとするも、私のツルツルな脳みそでは早くも限界が。
「……帰る」
「ちょちょちょ、待って待って!せめて最後まで言わせて!」
「おまわりさーん、この人でーす(棒読み)」
「変質者扱いしないでください!?」
どうしよう、このままじゃ本当に警察呼ばれて収監されかねない!(そんなわけはない)他に、他に…!
「……あ、そうだ。僕ら今度兄弟みんなで河原にバーベキューしに行くんだけど、あんたも来る?」
「…え?」
***