第9章 夏休み
「……その¨何か¨はあったけど、今は言いたくない」
「あ、そ、そっか。うん、じゃあこれ以上聞かないでおくよ」
予感はしてたけど、やっぱり話してくれないか…うんうん、こういう時もある!
よし、気持ちを切り替えて…
「イッチー、一緒に帰ろう!」
「…え、僕と?おそ松兄さんはどうしたの」
「担任の先生に捕まってるんだって。成績のことでありがたいお話があるから、先に帰っててってさっき連絡が来てたんだ」
「……あー」
彼も思い当たる節があるようで、やれやれと肩を竦める。終業式なのに容赦ないんだな、おそ松くんの担任…今度イッチーとの勉強会に誘ってみるべきかも。
「…じゃ、途中まで」
「うん、ありがとう!」
「あっついねー。まだ夏の始めなのに」
「…うん」
空を仰げば、太陽がギラギラと照り輝いている。いい天気ではあるんだけど、気温が高くてとにかく暑い。
ああ、向こうの景色が揺らいで見える…アスファルトの熱で靴底溶けちゃうんじゃないかな…
「…はー、あっつ…」
自転車を引きながら、片手で半袖の胸元を掴み、風を送るようにバサバサと動かす彼。
「イッチー、暑いの苦手?」
「暑いのも寒いのも両方無理。春秋がベスト」
「だよねー…」
私もカバンから扇子を取り出してパタパタと扇ぐ。
「…なんか雅なもん持ってるけど、それネタなの?」
「あ、これ?ネタじゃないよー、うちわだとかさばるから」
「でも扇子って…似合わな…」
「どーせお子さまですよーだっ」
んべっと舌を出すと、イッチーは目を見開いて…
「…ははっ」
「!」
…わ、笑った。
「そういうことするからお子さまなんじゃん…あー、バカっぽい」
喉奥でくっくっと堪えるように笑うイッチー。相変わらずの毒舌だけど、私はそれよりも
「イッチー、今笑ってくれたよね?!」
「は?……あ」
気付いた時にはすでに遅し。イッチーは羞恥心からなのかなんなのかみるみるうちに真っ赤になってくけど、私はしっかりとイッチーの笑顔をこの目に焼き付けましたから!出会ってから約3ヶ月目にしての大収穫だよー!