第2章 哀しみの色
「…余計な気、使わなくていいよ」
「っえ…!」
後ろから声がして振り向くと、居間の入り口に一松が立っていた。
チョロ松とトド松も驚いている。
「い、一松…聞いてたの?」
「聞いてたんじゃないよ。聞こえただけ」
戸惑うチョロ松を適当にあしらい、一松は俺たちを見下ろしてきた。
無表情だが…なんとなくその瞳からは怒気が感じられる。
「…ねぇ、みんなして俺とおそ松兄さんを腫れ物扱いしないでくれる?そういうの、逆にうざったいから」
「!なっ」
チョロ松が思わず身を乗り出すが、俺は首を横に振ってこれを制す。トド松は肩身が狭そうに俺たちの様子を窺っている。
このままでは不毛な言い争いになりかねないと、俺は一松に向き直った。
「一松。お前の言いたいことは分かるし、実際俺たちの態度にも非があったとは思う。だが…
「あー、いいよ説教とかうんざり。みんなは心配してくれてるつもりだろうけど、それ単なるお節介だから。…退院?めでたいじゃん。ま、俺みたいなゴミには関係ないけどね」
俺の言葉を遮って吐き捨てるように言い、最後に俺たちを一瞥して一松は去っていった。
…はぁ。これだから扱いが難しいんだ。
「……い、一松兄さん、なんだかすごく怒ってた…よね?」
「うん…今の会話は聞かれちゃまずかったね…」
「………」
重苦しい沈黙が辺りを支配する。
こうなってしまっては、おそ松にも正直に話すしかないだろう。あいつは一松のように怒りはしないだろうが…やはり気は進まないな。
『腫れ物扱いしないでくれる?』
先ほどの一松の台詞が胸に突き刺さる。
知らず知らずのうちに地雷を踏んでしまっていたんだな、俺たちは。
…本当に、いつになったらこのギスギスした兄弟関係を元に戻せるのだろう。
学生時代、仲良く毎日を過ごしていたあの頃のように。
…願わくは、彼女も。
***