第7章 傷
「…きゅ〜…」
すっかり日も暮れ、時計の針は間もなく19時を指そうとしている。出されたノルマをなんとかこなし、私はテーブルに突っ伏した。
「…お疲れ。まぁとりあえず今日のところはこれで終了…大丈夫?あんた」
「もう…だめかもしれないれふ…」
「なんで呂律回ってないの」
それにしても疲れた…さすがに約2時間ぶっ通しスパルタ授業はきつい…
「…まぁ…あんたもよく頑張ったんじゃない。途中で音を上げるとばかり思ってたんだけど、そんなことなかったな。…えらいえらい」
「…っあ…」
すっ、と彼の手が伸びてきて、私の頭を優しく撫でられる。思いがけないその行動に驚きつつも、私は心がぽかぽかと温かくなるのを感じた。
なんだか、彼に認められたようで…すごく嬉しいかも。
「イッチー…ありがとう、教えてくれて」
「いいよ、お礼とか。ただの気まぐれだし」
「それでも、助かったのは本当だから。ありがとね」
「…あっそ」
私が微笑むと、彼はばつが悪そうな表情をして視線を逸らす。うん、やっぱりいつものイッチーだ。
今なら…聞いてもいいかな?
「イッチー、私ね
「ごめん」
「…え?」
話を切り出すとすぐ、彼は遮るように謝罪の言葉を口にした。
視線は変わらず、そっぽを向いたまま。
「ごめん、って…」
「この間のだよ。…勝手にイラついて、無理やりあんなことして…悪かった」
「!」
もしかして、私に話しかけてくれたのは、それを伝えるために…?
だってつい昨日までは姿さえ見せてくれなかったのに。おそ松くんに事情は話してないから、家で何か聞いたとも思えないし。
イッチーも私と同じで、あの日のことをずっと悩んでたのかな…?
なんてまた、都合のいい考えが頭を過る。
「謝ろうとは…ずっと思ってたんだ。でもタイミングが掴めなかったというか…勇気が、出なかったというか…もっと早く伝えられたはずなんだけどな」
しかしその考えは、彼にあっさりと肯定されてしまう。
私と、一緒…
てっきり彼に嫌われてしまったのではないかと不安にも思っていたからか、安堵して急激に肩の力が抜けてしまった。