第7章 傷
その後、交代しながら何曲か歌って、一時間が経過した。
「少し休憩するかー」
「うん、そうだね」
途中からはお互い張り合うように熱唱していたからか、喉ががらがらになってしまった。ドリンクバーで飲み放題とはいえ、ジュース何杯飲んだかな…
と、おそ松くんが残っていたジュースを一気に飲み干したのを見て、私は立ち上がる。
「まだ何か飲む?私持ってくるよ」
グラスを持とうとした、その時。
「…鈴」
「え?…きゃっ!」
突然おそ松くんに腰を掴まれ、そのまま強制的に座らせられる。
そして私の肩に腕を回し、彼の体に寄りかかるように引き寄せられた。
「…!」
密着する。すぐ横を見れば、彼の顔。…彼がこちらを向けば唇が触れ合ってしまうくらいの至近距離に、心臓が大きく跳ねる。
「お、おそ松くん…」
自分でもびっくりするほど、掠れた声。歌いすぎもあるけど、きっとそれだけじゃない。
「…さっきの、話の続きだけど」
「…え?」
さっきのって…もしかしてファミレスで話した…
「話したくなったら、いつでも話せよ。内容によるけど、俺なりにアドバイスできることがあるかもしんねぇし、それに…」
そこで一度、おそ松くんの台詞が途切れる。
テレビから流れる音や周りから響く音楽でうるさいはずなのに、今は彼の声しか耳に届かない。
「俺、やっぱ…鈴のことは、どんな些細なことでも知りたいって思う」
「…っあ…」
肩に回された腕に力がこもる。
…どうしよう。嬉しい。
「…うん。気持ちの整理がついたら、必ず話すから…」
「……おう」
私…結局甘えちゃってるな、おそ松くんに。
この優しさとぬくもりにずっと寄り添っていたくて…都合の悪いことからは目を逸らし続けている気がする。
だめだって分かっているのに…
「鈴」
彼に名前を呼ばれ、顔を上げる。
ぶつかる、視線。ほんの数秒だけ見つめあい、やがてどちらからともなく唇を重ねた。
触れるだけの、軽いキス。もう何度おそ松くんとしただろう。
きゅっと、彼の制服を掴む。¨離れたくない¨と、言葉の代わりに伝えるように。