第7章 傷
「もしかして学校でなんかあったのかなって、彼氏としては心配にもなるじゃん。でさ、一応こないだ一松の奴に聞いてみたんだよ」
「…え!?」
声が出て、すぐさま口を手で覆う。ここで驚いたら不審がられちゃう…!
けど幸いおそ松くんは気付いていない様子で、話を続ける。
「そしたらあいつ、『無闇に首突っ込まないほうがいいんじゃない』ってそんだけ。まぁあの口振りじゃ詳しい事情は知らなさそうだし、納得もできたからあえて追及しなかったけど…やっぱ気になるもんは気になるんだよ」
…一松くんも、黙ってくれてるんだ。そうだよね、もしかしたら私よりも言い辛いかもしれないもん。
「もちろん、鈴が言いたくないことなら無理には聞かねぇよ。いくら彼氏だからって、なんでもかんでも聞いていいとは思ってないしさ。けどまぁ…差し支えなければ聞きてぇなって」
「おそ松くん…」
彼は、優しい。
私が彼に惹かれた理由の一つでもあるけど…だからこそ、その優しさに溺れてしまいそうになる。
ここで私が適当な嘘をついたとしても、彼が納得するかはさておき、「そっか」と笑って受け流してくれるだろう。
それでこの話を強引に終わらせてしまうことはできても、根本的には何も解決していない。私も、恐らく彼も、心に小さなしこりができたまま、これからも付き合っていくことになる。
きっと私はそんなの…耐えられない。
けれどもし、真実を伝えたら?おそ松くんは、一松くんをどう思うの?
6つ子のみんなはとても仲がいい。たまに家に遊びに行った時も歓迎してくれるし、私にとってはもう、¨おそ松くんの弟¨ではなく、単純に¨男友達¨として大切な人たちなのだ。
私のせいでその仲に亀裂が入ってしまったら…なんて、考えるだけでも心臓が締め付けられたように苦しくなる。
それに私自身、一松くんと話せていないせいで、彼の真意を図りかねている。そんな状態で伝える資格など、今の私にはないように思えた。
だから…