第7章 傷
「…とでも言うと思ったかぁぁーっ!!」
バサァッ!「うわっ!?」
まだいたらしい彼女がいきなり布団をひっぺがす。丸裸にされたような感覚に、僕はひどく混乱した。
「な、お前…っ!」
「イッチー、何か隠してるでしょ」
「……は?」
「絶対怒ってるもん。イッチーが話してくれるまで私、帰らないから!」
立ち上がって威張るように腰に手を当てながら僕を見下ろす彼女。な、なんて強情な女だ…
しかも猛烈に駄々をこねている…なんで理由を話さなきゃならないんだよ、鬱陶しいな。
「…あんたには関係ない。大体怒ってないし」
「怒ってる!だってずっと眉間にシワ寄ってたもん!」
「そりゃあんたが来たからで…」
こんな不毛な言い争い、するだけ無駄だ。分かってる、分かってるけど。
なぜだか今日の僕は卑屈で自虐的な上に頑固らしい。引く気も、あしらう気もなかった。
そしてそれは、彼女も。
「私だって、無理に誘いたくはないよ。イッチーが嫌なことを強要するつもりもないし、1人で帰れないわけでもない。けど、あんな態度を取られたら誰だって気になっちゃうよ!私が原因ならしっかり謝りたいの!」
「っ…」
ガンガン、と、内側から鈍器で殴られているかのように頭が痛む。
…嫌だ。もう考えたくない。思い出したくないのに。
彼女に罪はなくとも、今の僕には何を言われても苦痛でしかない。
「…頼むから、出てけ。頼むから…」
彼女は僕を心配してくれている。優しさからくる善意なんだ。だから傷付けてはいけない。
心の中でうわ言のように呟き続ける。必死に、自分自身に言い聞かせるように。
「イッチー…でもっ」
まだ食い下がるか。なんで、なんで僕のことなんか気にするんだ。
僕なんて
¨要らない子¨なのに…!
「出てけって…言ってるだろ!!」
僕の中で何かが弾けた。
叫ぶと同時に、僕はベッドから起き上がって彼女を突き飛ばし、隣のベッドに押し倒した。
「っきゃあ!」
そのまま彼女を組敷くように馬乗りになる。
「い、イッチー…」
戸惑いながら僕の名前を呼ぶ彼女の瞳に、今の僕はどう映っているのだろう。