第6章 紹介
カラ松兄さんが指差す先、こちらに向かって歩いてくる一組の男女。間違いない、あの赤いパーカーはおそ松兄さんだ。
「おー、お前ら!遅くなって悪い悪い!」
大きく手を振りながら近付いてくる。…よく見たら、もう片方の手彼女と繋いでるし。付き合ってるんだからおかしなことではないけど、いざ目にすると複雑だなこれ。っていうかムカつく。
「もー、遅いよおそ松兄さん!待ち合わせ別にここじゃなくてもよかったんじゃない?」
「だから悪かったって。校門前でいちゃついてたら時間あっという間に過ぎちまっててさ」
口を尖らせるトド松を、おそ松兄さんが宥める。っていうか何気にノロケられたな今。
バカ兄貴はさておき、俺たちの視線は一斉に彼女に向く。緊張でもしているのだろうか、背筋をこれでもかと伸ばして、強張った表情で俺たちを見上げている。
…トド松の言った通り、思ったより普通の子だな。小柄で可愛い方ではあるけど、おそ松兄さんは彼女のどこに惚れたんだろう。外見重視だと思ってたけど、やっぱり中身?
他の3人も同じ印象を持ったようで、ただ黙って彼女を凝視している。
「…あ、あの、お、おそ松くん。す、すごくワタシ、ミラレテルヨ…?」
冷や汗をだらだら流し、なぜか片言で喋りながら彼女はおそ松兄さんに助けを求める。挙動がまるで小動物だ。
「おい、お前らなんとか言えよー。彼女怖がってんじゃん」
「いや、紹介したいって言ったの兄さんの方だろ。なに、俺たちから名乗らなきゃならないわけ?」
…あ。
言ってしまってから後悔する。しまった、ちょっときつかったかな。
訂正しようとしたその時、彼女が一歩前に出た。
そして、
「わ、私は、天川鈴といいます!おそ松くんとは、よ、よい関係を築かせていただいております!で、ですから、あの…み、みんなとも仲良くなりたいです!よろしくお願いしますっ!」
ぺこっと、俺たちに向かって頭を下げたのだ。
「「「「……」」」」
これにはさすがの俺たちも呆気に取られてしまい、どうすべきか反応に困ってしまう。
最初に動いたのはトド松だった。
「あ、頭上げて鈴ちゃん。僕らにそんな丁寧な挨拶する必要なんてないよ」