第5章 交錯
…しかし、10分後。
「…あのさ、一言だけいい?」
「…はい…」
「甘すぎ」
「す、すみません…」
なんとかお弁当を完食した一松くんに、絶対零度の瞳でギロリと睨み付けられる。ひぃぃ、怖いよぉ…!
「なんなの?玉子焼きだけかと思ったら、野菜巻きも炒め物も唐揚げも、おかず全部甘かったんだけど?おかげで途中から味覚が麻痺したんだけど?米が苦く感じられたんだけど?」
「すみませんすみませんすみません、ほんっとうにすみませんでした…!!」
失態…!私自身甘いものが大好きだから、料理にはなんでも砂糖を入れちゃうんだけど…一松くんのお弁当は気を付けてたつもりなのに、結局いつもの癖でつい…!
「…まさか、おそ松兄さんの弁当もこんなのだったわけじゃないよね?」
「え!?お、覚えてないなぁ…」
「……(じぃっ)」
「た、多分激甘でした、はい」
おそ松くん、甘いもの好きだって言ってたから、遠慮なく砂糖入れまくった覚えが。…もしかして、本当はすごくまずかったけど、無理しておいしかったって言ってくれたのかな?私を傷付けないために?
そうだとしたら気持ちは嬉しいけど…さすがにうぬぼれすぎかな…
「…おそ松兄さんってさ、デリカシーないんだよ」
「…へ?」
い、いきなり何を。
「デリカシーないから、思ったことはっきり言うんだ。例えば、その弁当だって」
…あ。
「まずかったならまずかったって言うと思うよ。…幸せの絶頂で、味覚が狂ってんじゃない?」
ふいっと顔を逸らす一松くん。ちょっぴり言い方に難はあるけど、要するに彼は…
「励ましてくれてるの?」
「!は…っ?」
バッとこちらを向いた彼は赤面していた。
「か、勘違いも甚だしいんだけど。励ます?誰得なのそれ、理解不能。あんたさ、なんでもかんでもそうやって自分の都合のいいように解釈するのやめたら?これだから能天気な奴は…」