第5章 交錯
一松くんが眠っているベッドの側に座り、私は彼が起きるのをじっと待つ。
すー、すー、と、規則正しい寝息を立てて眠る一松くん。
寝顔、可愛いなー。ほっぺつんつんしたくなっちゃう。バレたら怖いからしないけど。
…なんだか罪悪感が。人の寝顔なんてあまり見るものじゃないよね。何か本でも読んでようかな。
カバンから、最近本屋で買ってきた図鑑を取り出す。
「…それなんの本?」
「えっ!」
顔を上げると、上半身を軽く起こした一松くんがこちらを見ていた。
「一松くん、お、起きてたの?」
「たった今だけど。で、それ何。やたら分厚いけど…図鑑?」
「うん、そうだよ。季節ごとに世界中の花が載ってるの。私、昔から花が好きなんだ。写真を見るだけでも楽しいよ」
「…へぇ。だからわざわざ図鑑?すごいね」
「あはは、よく言われる」
確かに、図鑑を持ち歩いてるなんて相当だなぁ、と自分でも思う。でも好きなんだから仕方がない。
「それより…なんであんたが平然とここにいるわけ?てか近い…」
「あ、私のことは鈴って呼び捨てでいいよ!おそ松くんにもそう呼ばれてるし」
「そりゃ付き合ってるからだろ。そもそも僕はあんたと馴れ合う気なんて…」
一松くんが不自然に口をつぐむ。何かを逡巡しているように見える。
「…あー、とにかく。用があるならさっさとして。僕まだ寝たいんだよ」
な、なんというわがまま…寝たいって前提がすでにおかしいよ、一松くん。
でもまぁいっか。私が一方的に押し掛けたようなものだしね。