第5章 交錯
思わず僕は片付けをする手を止め、彼女を見上げる。
「は…なんで謝るんだよ」
「だって私…すごく失礼だったから…」
耳を疑った。
失礼?何が?それは僕の方だろ。
勝手に不機嫌になって、出ていけだとか話したくないとか、きついことを言って彼女を突き放そうとしたのは僕だ。
それなのに、なんでお前がそんな…
「一松くん、怒ってるよね?私、あなたを好奇の目で見てしまった。おそ松くんと比べてしまった。一松くんからしたら、決して気持ちのいいことじゃないのに…だから、ごめんなさい!」
…初めてだ。
幼い頃から、6つ子ってだけで面白がられてきた。
成長するごとに、無個性だった僕たちは、各々アイデンティティを確立していく。やがて、容姿だけ同じままの僕らは、こぞって中身を比べられるようになった。
それが本当に嫌で、耐えられなくて、こうして1人、兄弟たちとは違う高校に来た。
期待をしていたわけじゃないけど
…いるんだ。自覚して、僕なんかに謝ってくれる、彼女みたいな人間が。
「…顔上げなよ。もう怒ってないから」
「!や、やっぱり怒ってたよね…ごめんなさい!」
「だから、もういいって」
僕は道具をまとめて元あった場所に戻すと、彼女の手を引いた。
「え…一松くん?」
「帰ろう。校門まで送ってく」
「え、えぇっ!気持ちは嬉しいけど、一松くん具合が悪いんじゃないの?」
「全く。健康そのものだよ。ただだらけてただけ。先生出張でいなくて戸締まり頼まれてるから、一緒に出よう」
「?、?…う、うん」
意味分かってないな、こいつ。そりゃそうか、この時間は帰宅部以外みんな部活やってるし。保健室でだらけてる物好きなんて僕だけだしな。
僕は開いていた窓を閉め、室内をさっと見回してから、鍵を引っつかんで電気を消し、彼女と廊下に出て鍵を閉めた。
「これ職員室に返してくるから、先に玄関に行っててくれる?」
「あ、私も一緒に行くよ」
いやなんで…と言いかけてやめる。自分で手当てしておいて何だけど、包帯を巻かれた彼女の膝が先ほどよりも痛々しく見えた。
目を離すとなんか心配だな…
「…じゃ、行こう」
「うんっ」