第5章 交錯
天川鈴…この名前って、確か。
「もしかして、おそ松兄さんの彼女?」
「う、うん!そうなの」
顔を赤らめて肯定する彼女を見て、改めてあの話は本当だったんだと衝撃を受けた。
入学式の日の夜、おそ松兄さんは僕ら全員を集めて再度彼女ができたことについて報告したんだけど、僕はともかく他のみんなは半信半疑だったからな…多分実際会ってみるまで信じないだろう。
でも、こいつが…おそ松兄さんの彼女か。…お似合いではあるかもな。
「まさか保健室で偶然会えるなんてね!私、ずっと一松くんに会ってみたいと思ってたんだ!」
「え…なんで?」
「だっておそ松くんの兄弟だよ?しかも6つ子!やっぱり見た目はそっくりだね」
…またか。こうして物珍しそうに¨僕たち¨を見てくる。
6つ子ってだけで、男も女も、教師ですらしつこく構ってくる。それは、今も昔も同じ。…僕たちは見世物じゃないのに。
イライラする。多分悪気はないんだろうけど、地雷を踏まれたことに変わりはない。
「…悪いけど、出てってくれない?ここは僕が片付けておくから」
「えっ…そんな、散らかしちゃったのは私だし
「いいから、出てって。…僕、他人と話すの、嫌いなんだ」
「!」
わざときつい口調で言う。大抵の奴なら、ここで怯んで出ていくはず…
「だ、だめ!私がやる!」
「は」
呆然とする僕の横で、彼女は床に散らばった道具をかき集め始める。
屈んでいるせいで膝が痛むのか、唇をきつく噛み締めながら。
「…おい、怪我が痛いなら無理するなよ。僕がやるってば」
「あっ」
強引に腕を引っ張り上げ、再度椅子に座らせる。ったく、なんでこんなに気にしなきゃいけないんだか…
『学校では、俺の代わりに気にかけてやってくれよ。迷惑かもしれねぇけど頼む、一松』
おそ松兄さんの台詞が頭を過る。…結局、兄の頼み事は無視できないんだな、僕。
「い、一松くん、あの」
「何?」
しかしどうしたって不機嫌な僕は、彼女に見向きもせず片付けを続ける。
「…ごめんなさい」