第5章 交錯
うとうととし始めた時、いきなりカーテンが開かれた。
「松野くん、いつまで寝てるの?先生これから出張だから、鍵閉めたいのよ」
保健の先生である榎田先生が、困り顔で僕を見下ろしてくる。
「…そうですか」
僕は先生の方を見ようともせず、グラウンドを眺めたまま適当に返事をする。
「そうですか、じゃなくて。部活もないんでしょう?早く帰りなさい」
…チッ、めんどうだな。
「鍵置いていってください。先生が出ていかれたら内側から閉めておきますし、帰りに僕が職員室に鍵を返せば問題はないですよね」
「…全くもう、ああ言えばこう言う。仕方ないわね、もう時間がないし、今日だけは特別よ?ただし、戸締まりはしっかりしておいてね。頼んだわよ」
「分かりました。さようなら、先生」
背を向けたまま、先生にひらひらと手を振る。
後ろからため息が聞こえたけれど、僕は無視。やがて先生は保健室から出ていった。
…ふぅ、やっと1人になれた。
鍵は…まだいいか。っていうかベッドから降りるのが億劫だし。ずっとこうして寝転がっていたい…。
先生のせいで目が覚めた。あー、暇。でも帰るのめんど…。
ガラッ
…ん?誰か入ってきた。先生?
「失礼します。…あれ、榎田先生?おられないのかな」
女子生徒の声だ。マジかよ…やっぱさっさと鍵かけとけばよかった。
ま、先生いないんだし、少しすれば諦めて帰るだろ。
僕は知らんぷりをして、ポケットからスマホを取り出し、ゲームアプリを起動する。やっぱり暇潰しにはこれが一番…
「…えーっと、勝手に使っていいのかな?すみません榎田先生、ちょっといろいろ拝借しますね」
…いろいろって、なんか怪我でもしてるのかな。まぁ僕の知ったことじゃないけど。
カーテンのすぐ向こうで、ごそごそと物を漁る音が聞こえてくる。よく使うような物は分かりやすいところに置いてあったはずだし、どうにかなるだろ。ってかさっさと手当てして出ていってほしい。
「うーん…消毒液と、ガーゼと…包帯もいるかな。テープってどこだろう」
…いや、どんな大怪我だよ!包帯って!
……は!僕には関係ないだろ…ゲームに集中…集中……