第5章 交錯
【一松side】
入学式から一週間が経った。授業に出るのがめんどうな僕は、今日も保健室のベッドに横たわっている。
この学校は校則や教師の目が比較的緩い。好都合だ。試験もトップ成績だったらしいし、入学してすぐに行われた学力テストも学年1位だったから、今のところ教師たちからは何のお叱りも受けていない。
おかげで悠々と保健室通いができている。
ベッドの上で寝返りを打つ。夕暮れに染まったカーテンが、少し開いた窓から吹き込む風でかすかに揺れる。
俺はベッドに横たわりながら、カーテンの隙間から見えるグラウンドを眺めていた。
ああ、今日はサッカー部が使ってんのか。なんか試合みたいなのやってる。
ほんと、部活なんて一体何が楽しいのかな。労力の無駄にしか思えない。
授業もそう。ようは単位さえ取れればいいんだから、毎日毎日あんな窮屈な教室で教師のくそつまんない話聞く必要なんてないだろ。
「……くだらない」
ぼそっと呟き、カーテンを閉めてシーツを頭から被る。
教師の前ではイイコぶればいい。テストではいい点を取ればいい。そうしてればこの保健室暮らしも大目に見てくれる。
友達なんて作る必要はない。どうせ作ったところで高校卒業と同時に消える脆い絆だ。そんな不確実なものに時間を割くくらいなら、家で勉強したほうが断然マシ。
…人間は嫌い。
中学の時に感じた苦痛はもうたくさんだ。僕は高校では1人でいい。
誰とも関わらないのが無難。むしろ僕を罵倒してくれても、悪い噂を立ててくれても構わない。
僕が悪者になれば、あの頃のようにみんなを悪く言う輩はいなくなる。
それでいいんだ。それが僕の望みなんだ。
¨真面目で器用で要領もよくて人当たりのいい松野一松¨
…そんな人間はもう、この世にはいない。