第16章 追想の愛
予想外の返事に驚く。
彼にどういう心境の変化があったのか…う、嬉しいけど、でもそれじゃ私の気持ちが収まらないし…!
「って、いきなり言われても戸惑うよなー。悪い悪い」
「…え、じょ、冗談?」
「いや、本気だけど」
彼はベッドから立ち上がると、窓を開けて外の景色を眺めた。
春先の暖かな陽気が、部屋に降り注ぐ。そよ風が心地いい。
「俺さ、あん時逃げたんだよ」
私に背を向けたまま、彼は語り出す。
「鈴がいつになく真剣な表情で、俺に話があるなんて言うからさ。こりゃもう別れ話だろって、最初から覚悟してたんだ。けど、聞いていくうちに、別れ話の方がまだマシだったって思ったんだよ」
「…おそ松くん…」
「¨あなたのことは好きだけど、今は距離を置かせてください¨ってそれ、捉えようによれば俺への気持ちに自信がないってことと等価だろ?そっちのが残酷だって。だからそれならいっそ別れちまった方が、後腐れなくていい…
って判断しちまったのが、そもそもの間違いだったんだよなぁ…」
一旦言葉を区切り、彼は空を仰いで大きく息を吐く。いつもの彼らしい軽い口調なのに、その姿からは哀愁が感じられた。
「…おかげで人生お先真っ暗になっちまった。寝ても覚めても考えるのはお前のことばかりで、俺にとって離れようにも離れがたいほど大切な存在だったんだって気付いたのは、お前がとっくに日本を発った後だった。…失ってから気付くって、まさにこういうことなんだなってガラにもなく思ったよ」
―自然と、涙が零れた。
私がいなくなって、彼がどれだけ辛かったのか、想い続けていてくれたのか、今になってやっと分かったから。
「最低な俺だけど…やっぱどうしたって鈴のことが好きなんだ。簡単には諦め切れねぇし、手離したくもねぇ。
…こんな男に自分の人生預けんの、正直不安かもしんないけど…やり直すんじゃなくて、戻ろうぜ。恋人同士にさ」
振り返って彼は、笑った。
私が一目惚れした…私の一番大好きな、人懐っこい彼の笑顔。
…やっと、見れた。やっと…届いた。
「…はい!」
私はもう…絶対にこの人を裏切らない。
おそ松くんと、生きていくんだ…―
***