第16章 追想の愛
【一松side】
さて…このドア、どうしようかな。
今しがた自分が破壊した部屋のドアを見下ろす。蹴りをもろに食らった中心部は半分に折れかけており、金具も曲がってしまって、これはもう作り直すしかないレベルの損傷だ。
「うわ!?な、なにこれ!」
「ドアがぶっ壊れてまんがな〜っ!」
「……あ」
とりあえずドアを移動させようと持ち上げたその時、2階に上がってきたトド松と十四松が部屋の前に現れた。
「い、一松兄さんがやったの?!」
「そうだけど」
「怖っ!何をどうやったらドア破壊とかできんの、バッキバキに折れてんじゃん!」
「一松兄さん、すっごいね!パワフルマッスル!」
「ただいまー…ってわぁっ!?ちょ、待ってこれどういう状況?!」
「ど、ドアがデストロイされている、だ、と…!?」
さらに出掛けていたチョロ松兄さんとクソ松も加わり、周囲は一層騒がしくなった。
「一松、お前がやったの?ってかおそ松兄さんは?」
「…病院。鈴に会いに行ったよ」
「「「「えぇぇぇぇ!?」」」」
ちょ、うざ…4人で叫ぶなよ、鼓膜破れるだろ。
なんとかドアを持ち上げ、ひとまず壁に立て掛ける。あー、これはご臨終してんな。直すのは諦めよう。
「な、何があったか教えてよ一松兄さん!彼女記憶が戻ったの?!」
「…うん、そうみたい」
「そうみたいって…お前、なんでさっきからそんな冷静なの?もうちょっとなんかさ…」
「…あー」
自分でも驚いてる。
けど多分それは…
「……ぶち壊したからかもな」
「え?今なんて…」
「別に」
ドアを蹴り破ったと同時に、俺の心の殻も破けたような、清々しい気持ちになった。
多分、そういうことなんだろう。
おそ松兄さんが帰ってきたら、仲直りしようかな。
あの様子なら今頃無事に彼女といちゃついてるんだろうし、母さんに頼んで赤飯炊いてもらうのも悪くない。
…やっぱりおそ松兄さんはすごいよ。俺は一生兄さんには敵わない自信がある。
でも、別にそれでいいんだよな。
兄さんは兄さんらしく、俺は俺らしくあれば
…生きるのも悪くないって、そう素直に思えるんだ。
‐哀色ハルジオン‐《Fin.》