第16章 追想の愛
…コンコン。
誰かが病室の扉をノックする。
時間は…まだ早い。他の誰かだろうと、私は努めて明るい声を出した。
「はい、どうぞ」
ガラ…
静かな音を立てて開かれる扉。そして現れたのは…
「…っ鈴…」
「おそ、松…くん…?」
汗だくになりながら息を切らしている、一人の男性。
見慣れた制服姿ではない、赤いパーカーを着た彼は…
「っおそ松くん!!」
私はベッドから下りると、素足のままなのも構わず走り、彼の胸に飛び込んだ。
「わっ…とと」
「おそ松くん、おそ松くん…っ!」
背中に腕を回して抱きつく。成長した彼の体は学生の頃よりも幾分か逞しくなっていて、身長差もより大きく開いてしまっていた。
それでも離れまいと精一杯しがみつき、彼の胸に顔を埋める。
「…気持ちは分かるけど、そうひっつくなよ。俺全速力で走ってきたからすげー汗だくだしさ」
頭上から優しい声が降ってくる。…ずっと聞きたかった彼の声。
それだけで、私の涙腺は崩壊してしまいそうだった。
「…あー…全く」
頭を撫でられながら、包み込むように抱き締められる。
懐かしい温もりに、とうとう堰を切ったかのように涙が溢れ出す。彼は何も言わず、私が泣き止むまで抱き締めていてくれた。