第16章 追想の愛
【鈴side】
イッチー…大丈夫かな。
私は祈るように時計を見上げながら、今か今かとその時を待った。
『俺よりも、会うべき奴がいるでしょ』
記憶が戻り、本当の意味で彼との再会を喜ぼうとした私に、彼は諭すようにそう言った。
イッチーに会えたのは嬉しかった。その気持ちに偽りはない。でも、心のもっと奥まで、彼には見透かされてしまったらしい。
『…うん。おそ松くんに、会いたいです』
6年前、伝えようとして拒絶された、私の想い。
時が経てば忘れられると思った。でも、一度は放棄しかけたこの想いは、忘れられるどころか膨らんでいく一方で。
日本に帰ることが決まった日、みんなに連絡をしようか迷った。
海外に滞在中、彼らに出した手紙は一度きり。カーくんたちはまだしも、おそ松くんもイッチーも、連絡をしたからといってもしかしたら会ってくれないかもしれない。
それだけは耐えられなかった。あんな別れ方をしておいて仕方がないのは分かってる。けれど、年月を経ても意味なんてなくて、やっぱり拒絶されるんじゃないかと思ったら、怖くてたまらなかった。
…本当は、気付いていたの。
駅前の広場でクリスマスツリーを眺めていた時、少し視線を外した先に、彼らがいたことに。
なんて偶然なんだろうと思った。奇跡なんじゃないかって。
…でも、私は逃げてしまった。
会いたくて会いたくてたまらなかった人たちから、再び逃げてしまったの。
きっとみんなは驚いていただけ。私は勇気が出せなかった。
もし面と向かって拒絶されたりでもしたら、立ち直れそうになかったから。
…その後すぐ、横断歩道を渡っていた私は、右折車に跳ねられた。
信号は青だった。運転手側の前方不注意。
でもきっと、最後のチャンスから逃げてしまった私に天罰が下ったのだろうと、僅かに残った意識下で死を覚悟していた。
…気を失う直前。
『ッ鈴!!』
懐かしく愛おしい、大好きな人の声を聞くまでは。