第16章 追想の愛
なぁ…お前はあの頃と何も変わらないのに、
どうして思い出してくれないんだよ?
どうして忘れたんだ?
事故のせいで記憶を失ったなら、もう4ヵ月以上経つ。それより前ならもっとだ。
本当に、もう一生忘れたままなのか?
そうまでして、俺たちの存在は…お前にとって苦痛だったのか?
「そうだ!私ね、もうすぐ誕生日なの」
「…誕生日?」
「うん。4月14日!」
カレンダーを見ると、ちょうど一週間後だった。ああ、そういえば聞いたことがあるようなないような。
「それまでには退院を目指してて、無事家に帰れたら、退院祝い&誕生日パーティーをしようって、お母さんとお父さんが計画してくれてるの」
「へぇ…すごいね」
「よかったら、一松くんたちも来ない?」
「……考えておく」
まぁ、俺は行かないけど。みんなは誘われれば喜んで行くだろう。
おそ松兄さんの手前、俺だけが彼女と仲良くするわけにはいかない。
…兄さんを彼女に会わせてあげたいけど、まだ時間がかかるかな…
その時、視界の端にキラリと光る何かが見えた。
窓から射す太陽光を反射して光るそれは、どうやら棚の上に置いてある彼女のスマホらしい。
いや、違う。正確には、スマホにつけられたストラップだ。
昔…見たことがある。これは
「…ハルジオン」
「え?」
間違いない。高校の時、彼女が通学カバンにつけていた、押し花のストラップ。スマホにつけられるようにアレンジはされているけれど、全く同じものだ。
4月14日…彼女の誕生花、春紫苑。
「ストラップのこと?一松くん、花に詳しいんだ!」
「…いや、別に。っていうかハルジオンくらい、知ってる人は知ってるでしょ」
「そうかなー?ちなみにこれね、私の誕生花なの。花言葉は…
「¨追想の愛¨」
「…!」
「だろ?」
「う、うん…」
知ってる。知ってるんだよ、とっくにさ。
だって全部、お前に教えてもらったんだから。