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【おそ松さん】哀色ハルジオン

第16章 追想の愛





俺と彼女以外、誰もいない病室。


近々1人新しい人が来るらしいけど、もしかしたら入れ違いで退院するかもしれないと、彼女は言った。


最初から最後まで一人ぼっちで寂しかったなぁ、なんて切なそうに笑いながら。


「今思い出したけど、もしかして一度だけ会ったことあるかな?」


一度どころか学友でしたけどね。


「…まぁね。あんたがここに運ばれてきたばかりの日に、来たよ」


「ごめんなさい、あの時はろくに挨拶もできなくて」


「仕方ないでしょ、死にかけだったんだし」


「死にかけってひどい!」


口では抗議するも、すぐ笑顔になる。まるで子供のように無邪気な笑顔。


…とにかく、よく笑う子だ。


確か、俺が彼女と初めて出会った時に抱いた第一印象がこれだった気がする。


本当に…変わらない。


「名前、聞いてもいい?」


「…一松」


「私、天川鈴っていうの。名前呼び捨てでいいよ」


…知ってる。もう何度呼んだか。


兄弟だということはあっさり納得してくれた。当然だよね、そっくりだし。


でも、何かが引っ掛かる。


この違和感は…なんだろう。


「一松くん」


「……え?な、なに」


「考え事?ぼーっとしてたよ」


…ああ、そうか。逆なんだ。


保健室でよく会ってた頃の俺たちと。


ベッドにいるのは俺じゃなくて、彼女だから。


「…なんでもないよ。それよりさ」


俺はベッドの脇にある小さなテーブルに目をやる。そこには色とりどりの花が飾られた花瓶が置いてあった。


「…綺麗だね、それ」


「あ、この花?お母さんが持ってきてくれたの。お母さんも私もね、ガーデニングが趣味なんだ」


「…そう」


知ってる。


「子供の頃から、花は見るのも育てるのも好き!今は春だから、可愛い花がたくさん咲くでしょ?退院したらいろんな場所に行って花巡りしたいなぁ」


知ってる。


「たまにね、押し花とかリースとか、ドライフラワーとかも作ったりするの。あくまで趣味なんだけどね。好きなものに囲まれる生活ってすっごく幸せ」


…知ってるよ。全部。



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