第16章 追想の愛
…打ち所が悪く瀕死だった彼女は、医者の懸命な治療により、なんとか一命を取り留めることができた。
それでも予断を許さない状態が続き、事故に遭ってから2週間以上経ったある日、ようやく意識が回復した。
面会が可能になり、彼女の両親と一緒に会いに行った。どうやら高校の頃、彼女から俺たちの話は常々聞いていたらしく、面会を快く了承してくれた。
…けれど。
「鈴。高校の時の友達が来てくれたわよ」
「…友、達…?」
全身の至るところに包帯が巻かれ、折れた右足をギプスで固定され、酸素マスクをした痛々しい姿の彼女は、ゆっくりと目だけでこちらを見回した。
そして、かろうじて聞き取れるほどの小さな声で、1人ずつ名前を呼ぶ。
「…チョロ、りん…ジュッシー…トッティ…カー、くん…」
そこまできて、彼女の目が僅かに見開かれ、声が出なくなる。両親が心配して「どうしたの?」と語りかけると、彼女は再び唇を動かした。
「…ごめ、なさい…お二人は…どちらさま…です、か…?」
「…!!」「…え…」
……そう。
鈴は、俺とおそ松兄さんのことだけを忘れてしまっていた。