第16章 追想の愛
「…なんて感傷に浸ってみたけど、要するに彼女に会う決心がついたってだけだよ。それで、たまたま出掛けようとする一松兄さんを見つけたから、ついていこうと思っただけ。相手が誰だろうが嫌じゃないよ」
「…ふぅん」
こうやって、また1人。
過去を克服して、立ち直っていく。
心底…羨ましい。
「確か彼女の病室って、326号室だっけ。うわぁ、緊張するなぁ…」
病院に着き、3階まで上がって廊下を歩きながら彼女の病室に近付くにつれ、トド松がそわそわとし始める。
「…行っておくけど俺、病室には入らないから」
「…へ?」
「部屋の外で待ってるから、好きなだけ話してきなよ」
「えぇ!?なにそれ、一松兄さん会わないの?!」
「うん」
っていうか、いつもそうだし。
その辺にいる看護婦に、彼女の様子を聞いて帰るだけ。俺は病室まで入ったことがない。
会えるわけないだろ。会ってどうするの?
だって彼女は俺のことなんて、
綺麗さっぱり忘れてるんだから。
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