第16章 追想の愛
玄関の戸に手をかけたところで、後ろから名前を呼ばれた。
「一松兄さん」
振り向くと、俺の機嫌を窺うように見つめてくるトド松がいた。
「…何」
「あ、えーっと…どこ行くの?」
「病院だけど」
「ぼ、僕も一緒に行っていい?」
「…は?」
珍しいな、こいつが病院に行きたいだなんて言い出すの。しかも俺と一緒にとか。
確かこないだクソ松が行った時はついていかなかったはずだけど…どういう心境の変化なんだろうな。
まぁ…断る理由もない。
「…いいよ」
「本当?じゃあ少し待ってて、軽く準備してくるから!」
「うん」
…ついてくるのはいいんだけど、俺とでいいのかな。
彼女に会いたいなら、他の兄弟が適任な気がする。なんで俺?
玄関の壁にもたれかかって待つこと数分。ようやくトド松が戻ってきた。
「お待たせ!行こっか、一松兄さん」
「…ああ」
病院に向かうバスの車中、俺は隣に座るトド松に尋ねてみた。
「…ねぇ。お前嫌じゃないの?」
「?何が?」
「ほら…病院行くのとか、俺と一緒にいるのとか…」
「…あー」
トド松は気恥ずかしそうに視線を窓の外に移した。
「うん…一松兄さんの言いたいことは、なんとなく分かるよ。不自然だよね、僕」
「別に、不自然っていうか…」
「僕なりにいろいろ考えてたんだ。そろそろ吹っ切れないとって。カラ松兄さんもチョロ松兄さんも、十四松兄さんだって彼女に会いに行ってるのに、僕はいつまで引きずってるんだろうって。本当に辛いのは僕じゃなくて、一松兄さんとおそ松兄さんなのにさ」
「………」
何も、言葉が出てこない。
トド松は流れる景色を眺めながら、ふっと笑みを溢した。