第16章 追想の愛
【一松side】
―彼女…鈴が、両親のいる海外に移り住んでから6年が過ぎた。
一時期は不登校だった俺とおそ松兄さんも、みんなと一緒になんとか高校を卒業し、
働く気のない俺たちは、大学にも行かずに揃ってニートとなった。
成人したからといって、生活に大きな変化があったわけじゃない。変わらず実家暮らしだし、誰も結婚どころか彼女すらできない、言わば社会カースト最底辺の集まりだ。
父さんも母さんも俺たちには甘いから何も言ってこない。おかげで悠々自適なニート暮らしを満喫している。
…高校の頃引きこもりだった俺とおそ松兄さんは、2年生に進級した辺りで再び学校に通うようになった。
吹っ切れたわけじゃないけど、いい加減自分の情けなさに呆れたんだろうな、と今では思う。
時間をかけて少しずつ元に戻っていったけど、兄弟の仲だけは今もぎくしゃくしている。
おそ松兄さんは滅多に笑わなくなった。引きこもりは脱却したけど、それでもみんなといることは少ない。大抵は部屋で1人ごろ寝をしているかパチンコに行くか飲みに行くかで、兄弟と過ごす時間は以前より格段に減ってしまった。
対して俺は、特に意識的に1人を選ぶこともない。誰かに話しかけられたら適当だけど相手はするし、外出に誘われたら気分が乗らない時以外はついていく。
結局、俺は兄弟や親にしか心を開いてないから、人間嫌いといっても邪険にはできない。
…あとは、そうだな。単に、寂しかったんだろう。
1人は好きだけど、1人は寂しいんだ。矛盾してるけど、そうやってひねくれてるのが俺だから。
おそ松兄さんとは、ほとんど口を聞いていない。
互いに嫌ってるとかそういうんじゃなくて、少なくとも俺は気まずいだけ。一応引きこもりを脱却した時に、俺を殴ったことを兄さんから謝ってくれたけれど、それきりだ。
クソ松やチョロ松兄さん、十四松にトド松は、俺たちに普通に接してくれるけど、どこか腫れ物を扱うような慎重さが窺える。
そしてそんな俺たちのぎくしゃくした兄弟関係は、この6年間、ちっとも改善の兆しが見えることなくだらだらと続いている。父さんも母さんも、表には出さないけど心労がすごいだろうな。申し訳ない思いはあるけど、こればかりは時間が解決してくれるしかない。