第15章 涙
【一松side】
チョロ松兄さんと十四松が下に行ってから数十分後。俺は静かにドアを開き、置いてある手紙を手に取った。
横を見ると、すでにおそ松兄さんの手紙もなくなっている。なんだ、いつの間にか俺よりも先に取ってたんだな。
再び部屋に籠ると、丁寧に糊付けされた手紙の封を開けた。
中には便箋が1枚。それと…
「これは…押し花?」
どこかで見たことのある、ピンク色の小さな花。確か…ハルジオン。
そういえば前保健室で、彼女の誕生花がどうのって話をした覚えがある。
あの時もらった、ムギワラギクのドライフラワー。今でも共用部屋に飾ってあるけど…
このタイミングでこれって…いろいろ反則だろ。
あいつとの思い出がフラッシュバックして、胸が痛む。手紙には一体何が書かれてるっていうんだ。
「………ぇ」
目を見開く。封筒と同じく真っ白な便箋には、俺への感謝の言葉と謝罪の言葉、そして、
¨これからは両親と一緒に、海外で暮らすことになりました。いつ日本に帰ってこれるのか、そもそも帰ってくるのかすら分かりません。なので、再会を約束できないことをお許しください¨
¨最後に…私と出会ってくれて、仲良くしてくれて、好きになってくれて、ありがとう。私もイッチーのこと、大好きでした。 鈴¨
……別れの、言葉。
こんなのって…ありかよ。
俺は確かに逃げた。最後の最後に逃げてしまった。彼女からも、現実からも。
だけどもう、会うことすら叶わないのか。
¨大好きでした¨
過去形になった愛の言葉。未練を断ち切ったという意味では、喜ばしいことなのかもしれない。
でも俺の心にはぽっかりと、大きな穴が空いてしまった。
…何が正解だったんだ。俺は何を間違った?
逃げなければ、こんなことにはならなかったのか?それともただの偶然か?
どちらにせよ、
彼女はもう…俺の、俺たちの、
手の届かないところに行ってしまったんだ…
***