第15章 涙
…不安定だ。何もかも。憤っているのか悲んでいるのか、いろんな感情がごちゃまぜになって気持ち悪くて吐きそうなくらいに。
「……一松。お前を責めるつもりはないから。鈴も」
「!おそ松兄さん…?」
今さら責めたって、意味がない。
「明日から学校は行く。けど、しばらくお前らとは距離置かせてもらうわ。…1人でさ、いろいろ考えてぇのよ。お前なら分かるよな?一松」
本音を言うなら、出ていきたい。この家から。
自分探しの旅とまでは行かねぇけど、自分を見つめ直す時間が欲しい。
けど、学生の俺にはリスクが高すぎる。
だからいいんだ、これで。これが精一杯の抵抗。
そして、大切なはずだった兄弟にする、生まれて初めての…拒絶だ。
「あいつから話は聞いたんだろ?お前が負い目感じるのは分かるけどさ…頼むから、しばらく放っておいてくれよ」
「………」
返事は…ない。その場を立ち去る様子もないが。
諦めてほしい。早く…
「……なんで、まだ我慢してるの?」
「!」
「おそ松兄さんに非は全くない。こんなことになったのは、僕が兄さんを裏切って彼女を好きになってしまったからだ。…なのに、どうして僕を責めないの。どんな罵詈雑言だって暴力だって、受ける覚悟はできてるのに…!」
それは、悲痛な叫びだった。普段は滅多に声を荒げたり、怒鳴ったりしない一松が。
「それが例え正しいことじゃなくても!僕には必要な痛みだし、受けるべき罰だ!おそ松兄さんが今まで無理して自分を抑え込んでたならなおさら、我慢なんてしないで思い切りぶつかってくればいいだろ!」
「…っ!!」
こいつの言う通りだ。
一体いつまで綺麗事を吐くつもりなんだ、俺は。
心底ムカついてんだ。堪えるだけ損じゃねぇか。
「…ねぇ、俺が憎いんでしょ?話ができないなら、拳で語り合うのも、悪くないんじゃない?…おそ松」
わざとらしい挑発。そうか、こいつはとことん自身を悪人に貶めたいんだ。
俺以上のクズになりきれば、俺がためらいなくお前に殴りかかれるって、そう思ってんだな。
…当たりだよ、一松。じゃあ俺も、
手加減なんか、してやらねぇ。
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