第15章 涙
別れ際、彼は笑ってくれた。
きっとまだ泣いていたかったんだと思う。けれど、最後の力を振り絞って、なんとか笑顔を作って…
それが私のためであったのか、おそ松くん自身のためであったのかは…分からない。
ただ一つ、はっきりしているのは、私の身勝手さが彼を深く傷付けてしまったことだ。
…全部、私が。
「……大丈夫?」
多分相当思い詰めているような顔をしていたのだろうか。イッチーが心配そうに少し腰を屈めて顔を覗き込んできた。
ここに来てからずっと逸らし続けていた視線が、カチリと合う。
…そこで、初めて気付いた。彼も辛そうな表情を浮かべていることに。
そう…彼だって辛いんだ。私も彼も、おそ松くんを傷付けたのは自分自身だと思っている。
共犯者ではない。あくまで自分だけが悪だと。
後悔しているのは、彼だって同じなんだ…
「…ご、めん…ちょっと、おそ松くんのこと考えてて」
「……昨日、兄さんと話したんだよね。…何か、あったんだろ?無理にとは言わないけど、教えてくれる…?」
私は小さく頷くと、言葉を選びながらぽつりぽつりと話し始めた。
おそ松くんと過ごした、最後の時間…偶然辿り着いたあのコスモス畑で、私たちが何を語り合ったのかを。
彼は急かすことなく、時折情景を思い浮かべるかのように目を閉じ、私の話に静かに耳を傾けてくれた。
話し終えた直後、頬に涙が伝った。もう泣かないと決めていたのに、どれだけ私の意思は弱いのだろう…
そっと目の前にハンカチが差し出される。彼の優しさに心が僅かに温まるのを感じながら、受け取って涙を拭いた。
「……話してくれて、ありがとう。鈴にばかり辛い思いさせて…本当にごめん」
否定したいのにうまく声を出せず、代わりに弱々しい動きで首を横に振る。
「家に帰ったら僕、おそ松兄さんと話そうと思う。…だから鈴は、少し休みなよ」
「…いちまつ…くん…」
「僕が真っ先に兄さんに話をするべきだったんだよな…責任は、僕が全部背負うから」
…もういいの、一松くん。だからそんな顔をしないで。
そう伝えようと唇を動かした時には、すでに彼は教室を出てしまっていた。
私は…
私は、これからどうすればいいんだろう…
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