第15章 涙
「我慢してたんだよ!ずっと、ずっと、俺は!」
とめどなく流れる涙が、私の額に、頬に、零れ落ちる。
まるで幼子のように顔をぐしゃぐしゃにして、彼は必死になって訴え続けた。
「分からねぇだろ?俺が今までどれほど苦労してきたか。ああ俺も知らなかったよ、苦労してたつもりなんてなかったんだからな!お前に出会わなかったら、こんな想いをしなかったら、きっと一生気付かずに、自分で自分の首を締め続けて生きてたと思うと怖くて仕方ねぇよ!」
「…お、おそ松くん…」
「長男だから、守らなきゃいけないんだよ…時には自分を押し殺してでも、大事な弟を守んなくちゃってさ…一松は俺のこと尊敬してるみたいだけど、ほんとは違う…俺なんかすごくもなんともないただのバカで、ほとんど義務感であいつらにとってのいい兄貴であろうとしてただけなんだよ…」
苦しそうに言葉を紡ぐ彼。
…やっぱり私は、おそ松くんという人をちゃんと理解していなかった。
ずっと無理して、いろんな不満を抱え込んで、決して私や兄弟には弱味を見せない。
本当の彼は…こんなにも脆くて弱い人。他者を思いやれば思いやるほど、自分の心を痛めつけて無理をしてしまう、優しすぎる人…
なんでもっと早くに、知ろうとしなかったんだろう。どうして気付いた時にはもう、手遅れなんだろう。
「…一松を責められない…お前も責められない…じゃあ俺が我慢するしかない…見守るしかない…そう自分に言い聞かせてきたけどさ……
もう…疲れたよ、俺」
ゆっくりと立ち上がると…彼は、最後に笑った。
「だから、終わりにしようぜ。…じゃあな、鈴」
「…!!」
その笑顔が、いつもの、私の大好きな笑顔だったから
¨終わり¨という言葉が、とても残酷に聞こえた。
「ま、待って!おそ松くん!」
去っていく彼の背中に手を伸ばすも、届かない。
…残されたのは、心の在り処を失った私と、
無惨に潰された、コスモスの花だけだった。
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