第15章 涙
…それでも、甘えちゃだめだと自分を奮い立たせ、懸命に声を絞り出す。
彼の暗い瞳を見ると怖じ気づきそうになるけれど、逸らさずに。
「…おそ松くん…私に、時間をください」
「…時間?」
「これ以上、おそ松くんを傷付けたくない…今までの最低な自分をリセットして、あなただけを好きだった頃に戻りたいの…だから、我が儘なのは分かってます。しばらく、あなたと距離を置かせてください…!」
深々と頭を下げる。…これが、私の出した結論だった。
別れることも考えた。けどそれは単なる逃げに過ぎない。彼から逃げて楽になりたいだけの、身勝手な行為。
罪は、しっかりと受け止めて、向き合って、償わなければ。
…そう、精一杯考えて、出した結論だった。
なのに、
頭を上げると、彼は
涙を流していた。
「!…おそ、松くん…?」
彼は何があっても、涙を流さない人だと思っていた。
マイナスはプラスに。悲しみは笑顔に。いつだって明るく前向きで、¨泣く¨ということと無縁そうだったから。
…そんなわけはなかった。だって彼も、1人の人間なのに。
「……お、まえさぁ…なんだよ、それ…」
「…あ…」
震える唇から、小さな声が漏れ出る。無表情で、血の気を失った真っ白な頬を、透明な涙が伝っていく。
「距離を置くって…んなの今さらだろ…とっくの昔からお前、俺よりもあいつとばっか一緒にいたくせに…」
「…!」
「学校が同じだからなんて理由にならねぇよな…お前が一松ばかり気にしてんのは、純粋にあいつに惹かれてるからだってことくらい、とっくに…気付いてたんだよ。…そう、気付いちまうんだよなぁ。気付きたくねぇのに…知らないままのほうが悩まずに済んだのに…!!」
「きゃあ!?」
抑え込んでいた感情が、一気に爆発したかのように、
怒りとも憎しみとも取れぬ形相に変貌した彼に、荒々しく体を突き飛ばされた。
背中を地面に強く打ち付けて倒れ込む。その拍子にコスモスの花びらがいくつか宙を舞った。
馬乗りになった彼に両腕を押さえ付けられ、背中と腕の痛みに顔を歪ませる。それでも私は抵抗はしない。
胸が張り裂けられそうなのは、私だけではないのだから…