第15章 涙
「…ごめん…なさい…」
「………」
言い訳なんかできない。でも、彼の前でその気持ちをはっきりと肯定したくない。
だから、謝るしかなかった。
…もう何度、彼に「ごめん」と言っただろう。
彼と恋人になってから毎日が楽しくて、幸せだった。
それが今は、ただ彼を悲しませてばかり。信頼を裏切って、全て自分が悪いのだと頭を下げて。
こんな関係…違うよね。
責任を取らなければいけない。自分自身を見つめ直すためにも…
「もうさぁ、一松と付き合っちゃえば?」
「……え?」
それまで黙って私を見つめていた彼が、乾いた笑みを浮かべながら問う。
…その瞳には、諦めのような絶望のような、暗い色が映っていた。
「お、おそ松くん…今なんて」
「だから、そんなに好きなら付き合えば?俺は許可するよー」
…彼が…何を考えているのか分からない。
ついさっきまでと印象がまるで正反対だ。ううん、それどころか、
「ほら、恋人になんのは一筋縄じゃいかねぇけど、別れんのは簡単じゃん?君が俺よりもあいつを選ぶってんなら、そうするのが最善ってやつ。だろ?」
考えることを放棄した…こんな投げ遣りな彼を、私は見たことがない。知らない…
なんだか彼がどんどん遠い存在になっていく気がして、私は慌てて反論した。
「ち、違うの、聞いて!確かに一松くんへの恋心はまだ消せてない…でも、私はまだおそ松くんが好きなの!」
「…ふぅん?」
「信じられないかもしれない。ただの言い訳にしか聞こえないかもしれない。けど、一松くんと話し合って、お互いが納得のいく道を歩んでいこうって約束した。…別々の、道を」
「……」
「彼と話をして、はっきりと分かったの。やっぱり私はあなたが好きだって。あなたの全てを知らないまま、理解しないまま離れるのは嫌だって思った。…でも、一松くんへの未練がまだ残ってる以上、どんな綺麗事を並べても、おそ松くんが傷付くだけだから…」
あと、もう少し…もう少しで伝えられるのに。
次から次へと流れ落ちてゆく涙が視界を滲ませ、嗚咽で息が苦しくなる。もう少しなのに、声が出ない。