第15章 涙
「…顔上げろよ。俺なんかにさ、頭下げんなって」
優しい言葉が降ってくる。でも私は頭を下げ続けた。
「ごめん…なさい…」
「…あー…」
彼は困ったような声を上げた後、しゃがんで下から私の顔を覗き込んだ。
「鈴。俺さぁ、お前のそういうとこ、好きだよ」
「…おそ松くん?」
「何に対してもまっすぐなとことか、悪いことしたって思ったら形振り構わず謝れるとことか、素直で優しいところとか」
彼が立ち上がるのにつられて私も上半身を起こすと、どこか慈しむような表情で彼が私の頭を撫でてきた。
「どれも、俺にはないものっていうか…ぶっちゃけ、羨ましいなーとか思ってたんだよね。なはは」
「おそ松くん…」
そんな告白を今するなんて、すごく卑怯だと思った。
私だって、あなたに憧れている部分はたくさんあるのに。言いたくても言えないのに、ずるいよって。
彼が私に背を向ける。空を見上げて、ぽつりと呟くように言った。
「俺…知ってたんだよね」
「え…?」
何を、と問う前に、彼はゆっくりと語り出す。
「全部ってわけじゃないけどさ。…鈴が、一松を好きだってこと」
「!」
「見ちまったんだよ、公園で二人が話してんの。最後までは聞かなかったけど、ほら、お互い告白してたじゃん?あー、やっぱりかー、って、俺ショック受けるっつーより納得しちゃったんだよねー」
…頭の中が真っ白になった。
あの時…側におそ松くんがいた?私たちの会話を聞いていて…
納得したということは、それよりも前から気付いていたわけで…
「はっきりと確信があったわけじゃねぇよ。ただ、なんとなーくそうなんじゃないかなってさ。お前はバレバレだけど一松はポーカーフェイス貫いてたから、関連性は薄いと思ってた。文化祭まではな」
―文化祭。その言葉を聞いただけで冷や汗が流れる。
やっぱりあの日を境に狂っていったんだ。私と一松くんだけじゃない、おそ松くんとの関係も。
「一松が学校行かなくなってから、なんか違和感を感じるようになって…いや、違うか。もっと前。夏休みにさ、バーベキューしに行ったの覚えてる?」
「…も、もちろん…覚えてるよ」