第15章 涙
振り向くと、髪にコスモスが添えられる。それを見て、彼は満足そうに微笑んだ。
「ん、可愛いじゃん」
「!あ、ありがとう…」
不覚にも、胸がきゅうっと締め付けられる。彼を愛しく想う気持ちが溢れて止まらない。
視線がカチリと交わる。数秒見つめ合い、やがてどちらからともなく唇を重ねた。
…こんなに好きなのに、
彼も想ってくれているのに、
私は…
「…なぁ鈴。なんか俺に言いたいことがあるんだろ?」
短いキスを終えると、彼が今度は真剣な眼差しを向けてくる。
私も逸らさずに見つめ返した。
「…うん」
「それ、何?」
「私と…一松くんについて」
彼の表情は変わらない。でも、心なしか私たちの周辺にだけ言い知れぬ緊張感が漂う。
…ついに、この時がやってきてしまった。
後はもう、伝えるだけ。
せめて、後悔だけはしないように。
「おそ松くん。私…」
彼と出会い、告白したあの時よりも体が震えてる。
彼の反応が怖くて、足がすくむ。
でも、
言わなきゃ。
「私…一松くんを、好きになってしまいました」
…彼の瞳がほんの僅かに見開かれた。
何かを問われる前に、私は続ける。
「一松くんも…私を好きだと言ってくれて…両思い、だったの」
「……」
「彼とは、出会ってからいろいろあって…私が時々元気がなかったのは、全部彼に関することで…だから、おそ松くんには何も言えなかった」
次第に涙が込み上げてくる。泣く資格なんかないのに、感情をコントロールすることができない。
「好きって気付いたのは、最近だけど…でも、一松くんのことばかり考えるようになったのはもっと前からで…それをずっと、おそ松くんに隠してた…」
涙が溢れる直前、私は彼に向かって深く頭を下げた。
「まずは謝りたいの!本当に、本当に、ごめんなさい…!!」
「…鈴…」
零れた涙が、コスモスの花を濡らしていく。
美しいはずのその花は、なぜかとても哀しげに佇んでいるように見えた。