第15章 涙
手を繋いで、街を歩く。
ここまでは、いつもと同じ。一緒に帰る時、おそ松くんとは毎回手を繋いでいた。
駅に着いたら離れるのが寂しかったな、なんてふと思い出す。
でも今日はその駅すら通り過ぎて、さらに先まで歩く。
…本当は、お気に入りの場所なんてない。
こうして二人で手を繋いで歩くのは、もしかしたら最後になってしまうかもしれないから、
できるだけ知らない道を、できるだけ長い時間をかけて通って、
少しでもいい…彼のぬくもりを感じていたい、なんて。
わがままがすぎるよね。
人通りが減っていく。この辺りは全然知らない場所。閑散とした住宅街も抜けて、田んぼや畑が見えてきた。
…もしかしたら彼はもう、気付いているかもしれない。ただ私たちは宛もなく歩いているんだってことを。
けれど何も言わずについてきてくれる。そういうところ、おそ松くんらしい。
そんな目的地のない小さな旅の終点は、
広い広い、コスモス畑だった。
「わぁ…っ!何ここ!」
「すっげぇ…」
都心から離れたとはいえ、まさかこんな場所にコスモス畑があるとは思わなかった。ピンク色の可愛らしいコスモスが咲き乱れて、そよ風に揺らいでいる。
「そっか、今ちょうど時期だもんね。綺麗だなぁ…」
思わず景色に見とれていると、おそ松くんが尋ねてきた。
「ここがお気に入りの場所なんじゃねぇの?」
「!あ、えっと…」
どうしよう、なんて言えば…偶然見つけましたって素直に言うわけにもいかないよね。
「そう悩むなよ。お前が嘘ついてこんなとこまで来ちまったことくらい、俺とっくに気付いてるしな」
「えぇ!」
彼は頭の後ろで両手を組みながら、いたずらっぽい笑みを浮かべる。…やっぱり彼には敵わないや。
「でも、どうして」
「うん?だってさー、お気に入りの場所なんかあるなら、今まで俺に教えてくれなかったのが不自然じゃん。どうして今さら?って思ったわけよ」
な、なるほど、確かに。
納得している私の横で、彼はコスモスを一輪摘み取った。
「鈴、こっち向いて」