第15章 涙
ガラッ「失礼します」
…保健室に入るのも久々だ。彼がいたから来ていたようなものだもん。
そして今日からは、その彼がいる。
「イッチー、寝てる?」
いつものベッドまで近付き、カーテン越しにそっと声をかける。
返事がない。少しだけカーテンを開けて様子を窺うと、彼は小さな寝息を立てながら眠っていた。
もう…相変わらずというかなんというか。登校するようになってもこのスタイルは崩さないんだなぁ。
おそ松くんに話をしに行く前に、一言挨拶をしておこうと思ったんだけど…
心地よさそうにぐっすり眠っているし、起こすのはかわいそうだよね。
「…いってきます」
それだけ呟き、保健室を出ていこうとして…
「…おそ松兄さんに会うの?」
彼の声が聞こえて、足を止めた。
「イッチー?ごめん、起こしちゃった?」
姿勢は変わらず私に背を向けたまま。でも瞼は開いていた。
「…ん、別に。それで、この後会うの?」
「…うん、校門で待ち合わせしてる。全部、話そうと思って」
「僕が言える義理じゃないけど…本当にそれで、後悔しないんだな」
「…しないよ。私自身が決めたことだから、後悔なんて絶対しない。…するわけにいかないよ…」
「……」
弱気な自分は捨てるんだ。頭は悪い私だけど、それでも考えに考え、精一杯考え抜いた上に出したこの結論を、覆すことはない。
「…おそ松兄さんなら…きっと話を聞いてくれると思う。…本当に、僕も一緒じゃなくていいの?」
「大丈夫、気持ちだけで十分だよ。…イッチー、¨いってらっしゃい¨って言ってもらってもいいかな?」
「…なんで?」
「勇気がもらえる気がするから。お願いします!」
ぺこりと頭を下げると、彼からため息が聞こえてきた。
そして
「……いってらっしゃい」
彼にしては優しい声色に安堵する。私の胸に喜びと勇気が込み上げてきた。
…きっと、大丈夫。どんな結末になっても乗り越えてみせる。
「いってきます!」
***