第15章 涙
【鈴side】
次の日。寝坊してしまい電車を何本か乗り遅れた私は、駅に着いてから全力で学校までの道を走っていた。
予鈴まであと5分しかない。どれだけ全速力といえど私の遅い足では限界がある。遅刻は免れないだろう。
…寝坊した理由。それは昨夜、おそ松くんと一松くんのことばかり考えていてなかなか寝付けなかったから。
一松くんとは、円満解決…とまではいかないけど、お互いがお互いを思いやる形で話は収まった。
今日からまた、友達として再スタートを切る。そう約束して…。
後は、おそ松くんに謝らないと。
今まで散々心配をかけてきた。もうこれ以上、彼に隠し事をし続けたくない。
私の想いと、一松くんの想いをちゃんと伝える。全部話すんだ。そして私も彼との関係を一からやり直そう。
おそ松くんが受け入れてくれるかどうかは分からないけれど…
い、今はとにかく、走らなきゃ!
「…鈴!」
「!」
名前を呼ばれて振り向くと、自転車に乗った一松くんが私の横まで来て止まった。
「…乗りなよ。これなら間に合う」
「え!で、でも、二人乗りは法律で禁止されてるんじゃ…」
「バレたらバレたで僕が庇ってやるから。別に走りたいならそれでもいいけど、息切れして遅刻するのってなんかメリットあんの?」
「うぐっ」
正論をぶつけられ、ぐうの音も出なくなる。迷っている時間はない。私は意を決して彼の自転車に跨がった。
「…乗った?」
「う、うん」
「じゃあしっかり掴まってて。急ぐから飛ばすよ」
言われるがままに、彼の体に腕を回してしがみつく。それを確認してから、自転車は一気に加速し始めた。
…友達でいようって約束したのに、こんなのずるいよ、一松くん…。
彼の背中に身を預けているのが気恥ずかしい。もちろんこれはただの善意であって、意識するほうがおかしいのかもしれないけど…
好きって気持ちは、まだ完全には消えてくれないみたい…胸の高鳴りを抑えられないんだ。
この火照った熱をどうか、靡く風が冷ましてくれますように…