第14章 優しさの罪
だんだんと、自分の存在意義が分からなくなっていく。
僕は優秀であってはならないのか?他の兄弟と同じレベルでなくてはならないのか?
どこで間違ったのか?そもそも僕は間違っているのか?
分からない。
分からない。
そのうち、兄弟が僕とその周囲の異変に気付き始めた。
僕に心ない言葉をぶつける奴には、必ず誰かが仲裁に入って相手を宥めてくれた。
きっと本当は殴りたかったんだと思う。でも誰もそうはしなかった。そしてそれはきっと、僕のため。
僕が勉強を頑張っていることを、兄弟は全員応援してくれていたから。「俺たちの分までよろしくな!」なんて軽口も叩いていたけど。
下手に暴動を起こして、僕の内申に響かないように。…みんなは、本当に優しい。
3年生になって、進路を決める時期が迫ってくる。 しかしその頃には、
暗い感情の矛先は僕にではなく、
僕を庇う兄弟に向けられるようになっていたんだ。
周りの奴らは手のひらを返したように、兄さんたちを罵倒する。
優秀だと教師に称賛される僕が妬ましかっただけだと…そっちのほうが断然マシだった。
僕なんかを守ろうとしてくれる、その気持ちだけで十分だった。
でも、みんなは優しいから。
…こんな事態になって、ようやく気付く。
ああ、僕に圧倒的に足りないものは、¨これ¨なんだと。
¨誰かを思いやり、守ろうとする優しさ¨
僕は自分のことしか考えていなかった。いつだって、自分、自分、自分、自分。
自分はこうあるべきだ、
自分はみんなより劣っている、
自分には何もない、
だから自分は努力しなければ。
…そう…この繰り返し。
何を1人で焦っていたのだろう。何に怯えていたのだろう。
どうして僕は、
ありのままの¨僕¨を受け入れずに、
変わることばかりに執着したのだろう。
…そして、もう1つ。
僕がおそ松兄さんに憧れる、最たる理由は、
僕に足りない¨思いやりと優しさ¨を、兄さんが一番持っているからだ。
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