第14章 優しさの罪
「一松ー!」
「…!」
家まであと数分という距離のところで、聞き覚えのある声が僕の名を呼ぶ。
走ってきたのは、おそ松兄さんだった。
「おま、歩くのはえーよ!やっと追い付いた!」
「え…ずっと追いかけてたの?」
「ずっとってわけじゃねーけど、俺も部活早めに終わったからさ!一緒に帰ろうぜ」
…本当は、1人のままがよかった。
でもその時の兄さんは、いつも以上に満面の笑顔で。
「…うん」
「っつってももうすぐそこだけどなー!がはは!」
その笑顔に、少し…救われた気がした。
***
山本の件が発端となり、校内では少しずつ僕に対する悪評が立ち始めた。
最初は僕の成績を素直に羨んでいた生徒たちも、次第に陰口を叩きながら遠退いてゆく。
…この頃から僕は、¨孤独¨を知った。
***
対して教師はいつでもご満悦。
「いやぁ、一松くんは本当に素晴らしい!勉強もできて授業中の態度も完璧、体育の成績も優秀だと聞きます。委員会もよく頑張っているようで、我々教師陣一同、鼻高々というものですよ。はっはっは!」
「え、ええ…それはどうも…」
「………」
三者面談の時の母さんの恐縮しきりな表情。見ていて痛々しかった。
中にはこんな奴らもいた。
委員会の仕事で、資料を取りに職員室に向かっていた時のこと。
階段の踊り場のところに二人の新米女教師がいて、明らかに僕についてであろうことをコソコソ喋っていたんだ。
「1人だけずば抜けて優秀なんですって」
「他の子はそうでもないんでしょう?6つ子なのに変わってるわよねぇ」
…丸聞こえなんですけど。
ルートを変えよう、と思ったがあえてそのまま彼女らの横を通りすぎる。
気付かれない程度に目だけで様子を窺ったけど、二人とも悪口を言っているのを咎められたかのようなバツの悪い顔をしていたな。