第12章 羨望
【カラ松side】
駅に着いたところで、持ってもらっていた荷物を彼女から受け取る。
「ありがとう、助かった」
「ううん、こちらこそ話を聞いてくれてありがとう。おかげで勇気が湧いてきた気がする」
「だが、結局質問には満足に答えられなかっただろ?あまり役には立てなかったな…すまない」
「そんなことないよ!…私なんかに気を遣ってくれて嬉しかったし、カーくんの言ってたことは全部正論だと思う。もう少し自分で考えてみるね」
「…ああ」
「また会おうね」、と彼女は大きく手を振りながら、来た道を引き返していく。
…俺は、正しいことをしたのだろうか。
彼女の期待に応えるのは容易だった。でもこればかりは、とても俺の独断で話せるものではない。最低でも一松、あとおそ松兄さん辺りに許可をもらわなければ…軽々しく口にできないのだ。
せめて彼女の背中を押すきっかけになればと、ほんの少しだけ昔話をしてみたが…余計混乱させてしまっていたとしたら罪悪感しかない。
しかし…鈴が一松を、か。
驚きがなかった、といえば嘘になる。だがなぜ俺はこんなにも冷静なのだろう。
心のどこかで察していたとでもいうのだろうか。あいつはなんだかんだで自分なりに彼女を大事にしていたからな…。
一松が不登校になった理由。俺たちは各々本人に聞いてみたが、はっきりとは教えてくれなかった。
ただ一言、「学校に行きたくないから」と、それだけ。
何があったのか、と聞く者は誰もいなかった。…中学時代の一松の姿と重なってしまうから。
あの状態のあいつに下手に干渉してはいけない。それが俺たち兄弟の暗黙のルール。だから執拗に問い詰めはしなかったし、一松のペースに任せようと思ったんだ。
だが…とんだ思い違いだったらしい。まさか彼女が原因だったとはな…。
優しく他人思いな彼女のことだ。一松を傷付ける気なんてなかったに違いない。不幸な事故だったんだろう。
…これから、どうするつもりなんだろうな。
俺はもう手伝えそうにない。彼女だけを甘やかすわけにはいかないんだ。
…おそ松兄さんも、一松も、俺にとって大切な兄弟なのだから。