第12章 羨望
…おそ松くんと、イッチーのやり取りを思い出す。
確かに言われてみれば…うーん?おそ松くん弟みんな大好きって前言ってたし、男兄弟ってあれくらいの距離感だと思ってたんだけど、何か違うのかな?
…ああでも…イッチーは出会ったばかりの頃から私を気にかけてくれていたよね。あれっておそ松くんが頼んだからじゃなかったっけ。
おそ松くんも、イッチーをすごく信頼してるみたいだった。それって自分が慕われてるから、可愛くって甘やかしてたってこと?
頭にはてなを浮かべていると、隣でカーくんが吹き出す。
「ははっ、ピンとこなくて当然だ。だって鈴は二人の家での様子までは知らないだろう?さすがに中学に上がってからは見なくなったが、小学生の頃なんか一松はおそ松兄さんにべったりだったからな。意外だろ?」
「う、うん…想像もつかない…」
「そのままでいられればよかったんだけどな…」
彼が目を細める。その瞳は空ではなく…もっと遠くを見つめている気がした。
「…羨ましい、って?」
「ああ…悪い意味ではないんだ。ただ、おそ松兄さんは一松にはないものをたくさん持っていて、それが羨ましくていろいろ拗らせてる、というか」
「!そんな…イッチーにだっていいところはたくさんあるし、いくら6つ子だからって、おそ松くんもイッチーも違って当然なのに…!」
思わず立ち上がって叫んでしまった私に、カーくんが驚く。
あ…!な、なにでしゃばってるの私…!
顔面が熱くなる。力が抜けたようにブランコに座り直す私を見て、カーくんは優しく微笑んだ。
「そうだな、その通りだ。鈴らしい」
「うぅ…ごめんなさい…」
「なんで謝るんだ?ムキになるほどには、一松をよく見ている証拠じゃないか」
「そ、そんなこと…」
謙遜しつつも、照れが隠しきれない。カーくんも大概鋭いな…
「まぁ、とにかくだ。あいつの過去といっても、誰もが驚く大事件や大事故があったってわけではないぞ?俺たち6つ子以外にとっては、そんなに深刻な話じゃない。要は、一松の気持ちの問題だな」
「…イッチーの、気持ち…」
***