第12章 羨望
家に着く頃には、もう空は暗くなっていた。
「ただいまー…誰もいないのか?」
玄関から奥に呼び掛けてみるも、返事がない。居間に入って荷物を置き、辺りを見回す。
なんだ、みんなどこかに出掛けているのか…母さんはスーパーに行ったのかもしれないな。
とりあえず仕分けられるものは仕分けておこうと、再び荷物に手をかけた、その時。
「……おかえり、カラ松兄さん」
「わぁっ?!」
後ろから突然声をかけられ、驚いて叫んでしまう。振り向くと、若干不機嫌そうな表情の一松が立っていた。
「…なんでそんなに驚くの?びっくりさせたつもりないんだけど」
「す、すまない…ただいま、一松…」
「ん」
二階にいたのか。目が充血気味だし、恐らく眠っていたんだろう。
それにしても、よりによって一松か…今一番気まずい相手だな。
「いっぱい買ってきたね。どこまで行ってきたの?」
「え?ああ、数駅先の繁華街だ。そこなら全部揃うって母さんに言われてな」
「ふぅん…」
てっきりこれで終わるものと思ったが、一松は出ていくどころか俺の隣に腰を下ろし、買い物袋を漁り始めた。
「い、一松?何してるんだ?」
「見ちゃだめなの?僕らの服もあるんでしょ」
「ま、まぁ…」
「ついでに仕分け手伝うよ、暇だし。兄さんたちいつ帰ってくるか分からないしね」
「…そ、そうか…ありがとう」
なんだか、今日の一松…いつもと違うな。こんなにいい子だったか?
……いや、前言撤回だ。俺は弟をなんだと思ってるんだ。一松は元々真面目で素直でよくできた人間だったじゃないか。
ただ…中学を卒業する頃には、見事なまでに真逆の性格というか…ひねくれてしまっていたがな。
「…カラ松兄さんもやってよ。なに止まってんの」
「!あ、ああ、すまない」
今日、彼女に会ったこと…話したこと…俺はこいつに、何も言えない。秘密にしなければならない。
家ではこんなに普通で元気そうなのに…一体彼女との間に、何があったのだろう。
…一松は、彼女を…どう思っているんだろうな…