第12章 羨望
途端に、堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出す。
泣いたところで許されるわけじゃない。それでも、涙は止まってくれなかった。
「…っわた、わたし…っ」
「うん」
「おそ松、くん…が…っ…いる、のに…好きになっ…ちゃ、いけないのに…っ!」
「…うん」
嗚咽混じりで時々声が出なくなりながらも、私は必死に言葉を絞り出す。そんな私の背中を優しく擦りながら、カーくんは頷いてくれる。
「わかっ…分かって、る、のに…イッチーの…ことばか、り…っぐすっ…ひっく…」
「…好きなんだな、一松が」
「っ…う、ん…」
苦しげに息を吐く。泣きながら無理に喋ったせいで喉が痛い。
でも…本音をさらけ出したせいか、もやもやと燻っていた重い心が少し軽くなった。
「…ありがとう、それだけ分かれば十分だ。ほら、一旦落ち着こう」
ポケットティッシュが差し出され、受け取って鼻をかむ。うぅ、ずびずば…
ティッシュ、使い切っちゃった…男の子の前で鼻をかむなんて、ちょっと恥ずかしかったかも…
「もう平気か?」
「う、うん。ごめんね、ティッシュなくなっちゃった…」
「構わないさ。…それで、一松のことなんだが」
「!」
声のトーンが低くなる。もしかして、イッチーの兄として何かお叱りが…
「そう身構えないでくれ。あいつの過去について知りたいんだろう?」
「あ…お、教えてくれるの?」
僅かな期待が生まれるも、彼は首を横に振る。
「いや、君の気持ちを聞いて改めて思ったんだ。これだけは絶対に俺から伝えるべきじゃないって。一松本人から直接聞くべきだろう」
「…え?!」
「もちろん、今すぐは不可能かもしれない。だからいつか来るその時までの繋ぎとして、これから話す内容を胸に刻んでおいてほしいんだが」
そこで彼は一度言葉を区切る。ブランコの鎖を力強く握り締め、彼は空を見上げた。
「…一松は、おそ松兄さんが羨ましいんだよ」
「え…」
羨ましい…?イッチーが、おそ松くんを?
「あの二人、俺たち兄弟の中では特別仲が良いんだ。まぁ端からはそうは見えないかもしれないが、一番気を許し合っているというか」