第12章 羨望
「そうか。なら悪いが、駅まで頼めるか?」
「うん、任せて!」
…あ、でもその前に。
「カーくん、家には急いで帰らなきゃならないのかな?」
「え?いや、そんなことはないが…」
「だったら、少しだけ付き合ってくれる?」
「?ああ、構わないぞ」
私がカーくんを連れてやってきたのは、近所にある小さな公園。
滅多に人が近寄らないし、内緒話するにはここが最適なんだよね。
「カーくん、ブランコ乗らない?ここベンチがないの」
「あ、ああ」
若干戸惑い気味のカーくんの手を引き、ブランコに向かう。側に荷物を置いて、少し錆びれたそれに腰を下ろした。
「…それで、どうしたんだ?何か話があるんだろう」
「うん…」
咄嗟の思い付きで、彼をここまで連れてきちゃったけど…いざ改まって考えると、何から話せばいいか迷うな…
学校を休むようになってから、イッチーは家でどう過ごしているの?とか、
兄弟みんなにとって、イッチーはどう思われてるの?とか、
…ううん、それよりも。イッチーと最後に話した時から、ずっと気になってたことがある。
知ってはいけないことかもしれない。彼のいないところで、簡単に聞くべきことではないかもしれない。
でも私は、彼のことを半分も知らない気がして…そんな自分が嫌で…
わがままでも、自分勝手でも、それでもいいから、知りたいんだ。
今のままの中途半端な自分じゃ、きっといつまでも勇気なんて持てないし、前に進めないと思うから。
…だから。
「…カーくん。イッチーについて聞きたいことがあるの」
「一松、か?」
彼の、あの時の台詞を思い出す。
『中学の時、世の中のクソさを痛感したはずなのに、飽きもせずに期待した僕がどうしようもないゴミだっただけ』
「イッチーの過去のこと…教えてほしいんだ」
「…!」
カーくんが息を呑む。一瞬にして、辺りの雰囲気が緊張に包まれるのを感じた。
「………」
彼は、黙ったまま。眉を寄せて、苦しげな表情を浮かべている。まるで、見えない何かに押し潰されそうになっているかのように。
…やっぱり、踏み込んではいけないのかな。兄弟であるカーくんですら話すのを躊躇うなんて、よっぽどのことがあったんだろうし。