第12章 羨望
「…すまない、鈴。こればかりは、俺の一存で話すわけにはいかないんだ。一松の気持ちもあるからな」
「…あ…そ、そうだよね…」
カーくんの口調は穏やかだけれど、気を悪くさせてしまったかもしれない。そもそも、本人にではなく人伝に聞こうとした時点で、私に非があるのだから。
申し訳なさで泣きそうになる。俯いて黙り込んだ私の頭を、カーくんが優しく撫でてくれた。
「君を責めてるわけじゃない。だからそんなに落ち込まないでくれ」
「…カーくん…」
撫でられると、彼を思い出す。二人で文化祭の準備をしていたあの頃が、一番幸せだったのかもしれない。そんなに昔のことじゃないはずなのに…懐かしいな。
「…逆に、聞いてもいいか?」
「うん…?」
「鈴はなぜ、一松の過去を知りたいと思ったんだ?」
…そうだ。カーくんが疑問に思うのも当然。
誰かの過去なんて、普通は詮索したりしない。恋人であるおそ松くんに関しても同じ、知られたくないことなんて誰にでもあるし、それを無理に聞き出そうなんてもってのほかだ。
イッチーと私は、ただの友達。知る必要なんてない。知らないままの方が、むしろ幸せかもしれないのに。
カーくんは、真っ直ぐに私を見つめてくる。…その瞳に、嘘はつけそうにない。
少し悩んで、私は自分の気持ちを正直に打ち明けることにした。
「…イッチーが不登校になったのは、私のせいなの」
「え…?」
彼が驚きの声を上げるも、私は構わず続ける。
「何があったかは、詳しくは言えないんだけど…でもとにかく、私のせいでイッチーが傷付いたのは確かで…けど私、彼のことほとんど何も知らない。学校では毎日のように喋ってたけど、きっと表面上でしか彼を理解してなかったと思うの。今のままじゃ、仲直りも…ううん、会うことすらできない。だから……」
「…だから、知りたいのか」
「…うん」
「それだけか?」
…え…?
予想だにしていなかった切り返しに驚き、顔を上げて彼を見る。
「鈴。…君は、一松のことが好きなんじゃないのか?」
「……!!」