第11章 軋み始める関係
看板を作ってる間だけは、僕は¨普通の生徒¨に見えていたのだろうか。
周囲に馴染めていたのだろうか。
だとしたら、それは…彼女のおかげなのだろうか。
「…ね、イッチー。イッチーはこの数日間、楽しかった?」
彼女を見つめていると、突如優しい眼差しを向けられて、僕の心臓が小さく跳ねる。
「楽しくは……なかった」
素直に答えるのもなんだか癪で、僕はわざと嘘をつく。我ながらひねくれすぎ。
でもそれすら予測済みだったのか、彼女は悲しみも怒りもせず、ただ苦笑した。
「そっか。私は楽しかったんだけどなぁ〜…」
ぐてーっと机の上に上半身を伸ばし、そのまま突っ伏してしまう。
「…おい、寝るなよ」
「寝ないよ〜。…あのね、イッチー」
「今度は何」
「余計なお世話だったかもしれないけど…イッチーがみんなと話せるようになってよかった」
「!」
…やっぱり、こいつ…僕に協力を依頼したのは、実はこのためだったのか?
初日に感じた違和感。彼女がわざわざクラスメイトに僕を紹介したこと。歓迎されたこと。
もしかして…僕の心を開かせるため?
看板作りこそ半強制だったものの、他の生徒の態度にわざとらしさはなかったし、話すようになったのもごく自然な流れで、そうなるよう仕組まれた感じもなかった。
僕が他人とコミュニケーションが取れるように、背中を押してくれたとでもいうのだろうか。
そんなことを頼んだ覚えはない。ないのに…
なぜ、¨嬉しい¨という感情が胸の奥底から込み上げてくるのだろう。
とっくの昔に捨てたはずだった。誰かと仲良くなりたいだなんて気持ちは。友達なんて作るだけ無駄。赤の他人と話す必要なんてない。…そう、自分に言い聞かせていたはずなのに。
いつの間にか僕は、このクラスにいることを…心地よく思っていたのかもしれない。
「…そういう、作戦だったわけ?」
「うーん、作戦っていうか…イッチーはすっごくいい人だよ!っていうのを、もっとたくさんの人に知ってもらいたかったの。うちのクラスにも、本当はどんな人なのか気になるっていう子けっこう多かったしね。…だから、楽しかった?って聞いたの。満更でもなさそうでよかった!」
「…満更でもないって…」