第11章 軋み始める関係
なんだ…嘘まで見破られてるのか。
…自惚れじゃなかったんだな。彼女の行動力の高さには驚かされる。
僕なんて、彼女の恋人がおそ松兄さんだから知り合っただけのゴミ人間なのにさ。友達だからって本気で心配しすぎでしょ。僕だったら例え立場が逆だったとしたら放っておくね。
けど…これが彼女だ。
知り合って数ヶ月。毎日のように顔を合わせて会話しているせいで、彼女の性格くらい手に取るように分かるようになった。
自分だけじゃない、自分に関わる人間にも幸せになってほしくて奮闘する。
他人事を他人事と思わない。
以前、そうやって触れちゃいけない部分に土足で踏み込まれて腹が立ったこともあったけど、
今は…そんな彼女を許してしまう自分がいる。
…愛しい、と思ってしまう。
「……」
無言で、彼女の柔らかそうな髪に触れる。
「…イッチー?」
彼女は不思議そうに僕を見上げてくるが、抵抗はしない。くりくりとした大きな瞳が相変わらず小動物みたいで、思わず愛でるように頭を優しく撫でた。
「ふふ、どうしたのイッチー。くすぐったいよ」
気持ち良さそうに目を細める鈴。…どこまで無防備なんだろうな。
おそ松兄さんっていう、お似合いの彼氏がいるくせに。弟だからって気を許しすぎだろ。
別に僕は、彼女を兄さんから奪おうなんて野蛮なことは考えてない。どれだけ、彼女を愛しく想ったとしても。
だけど、こうも全く意識せずに身を任せられると…一人の男としては、非常に複雑だったりする。
一度でいいから…¨僕自身¨を意識してほしい。
「イッチーの手って、あったかいね」
「…え?」
「安心する…」
そう呟いてうとうととし始める彼女を、黙って見つめる。
…本当に、なんなんだよ、お前。
「……限界」
「…?イッチー、何か言っ
彼女の台詞は、そこで不自然に途切れた。
―重なる、唇。
わがままだって分かってるんだ。彼女が愛しいとか、欲しいとか、触れてみたいとか、そういうの。
到底許される感情ではないし、おそ松兄さんに今後どんな顔して会えばいいのか見当もつかない。
でも、どれだけ後悔してももう手遅れで。
…叶わない恋っていうのは、こんなにも惨めな気持ちになるものなんだな…―