第11章 軋み始める関係
「え?ああ…」
僕は消しゴムをペンケースから取り出し、彼女に手渡す。
「ありがとう……あ」
「?なに…」
俯いていた顔を上げると、彼女と目が合った。
…っだから近いって…!
「ごっごめん!お借りします…!」
「は…?」
いや、
なんでそこで赤面するんだよ。
謝る必要もないだろ。
…ああ、そうか。
おそ松兄さんのことを思い出したのかもしれない。
顔の造りは同じなわけだし、そういうことなら多少意識はするだろう。
だよな…変に考えないほうがいい。
歓迎ムードに圧倒されて浮かれてたみたいだ。彼女が僕なんかを意識するはずがない。
そう…僕のことなんて。
「あ、あのー…もしよかったら、私たちも手伝いましょうか?」
「…え?」
声をかけられて顔を上げると、男女合わせて数人が僕らの目の前に集まってきていた。
…ど、どういう状況だこれ。今手伝うとか言ったか?
「み、みんな、そっちは終わったの?」
「うん、大体はね。その看板けっこう大きいし、二人がかりだと大変でしょ?だから少しでも人数増えたほうが楽かなと思って」
「そっか、ありがとう!ねぇイッチー、せっかくだから手伝ってもらおうよ!」
「…は?」
困る。共同作業だと?ただでさえ、鈴と隣り合わせでいることも人口密度の高い教室にいることもギリギリのところで耐えているというのに、できるわけがない。
「……別に、手伝いなんて……」
…なぜだろう。拒否したいのに、素直に言葉が出てこない。
自分にとって不利益だったり、興味がなかったり、嫌なことは今まできっぱりと断ってきたはずなのに。
喉の奥に、もやもやとした何かが突っかかって…あと一歩のところで止まる。
僕…断りづらいと思ってる?この好意を無下にはできないと思ってるのか?こいつらはついさっき知り合ったばかりの赤の他人で、鈴とは違うのに。
「…イッチー」
彼女が、何か言いたげな瞳を向けてくる。まるで母親が子供を諭すような優しさを滲ませた声で、僕の名を呼んだ。
…そんな顔をするなよ。僕が悪者みたいじゃないか、全く…
「……じゃあ、その…そっち側から書いてくれると…た、助かる、かも…」
***