第11章 軋み始める関係
まぁ…描くのが嫌いなわけじゃない。デザインはともかく、下書きから色塗りまで一通りそつなくこなせる自信はある。
…けどわざわざ彼女に僕が美術得意っていう真実にはしがたいガセネタを吹き込むのもどうかと思う。おそ松兄さんめ…
「イッチー、疲れてない?そろそろ休憩しようよ」
それまで他の作業をしていた鈴が、こちらにやってくる。
「…いい。せめて下書きだけは今日中に終わらせる」
っていうか今すぐにでも完成させてしまいたい。たまに他の生徒がこっちをちらちら見ている気がして落ち着かないし。
歓迎されたとはいえ、部外者なのには変わりないからな。さっさと作ってお役御免被りたいところだ。あー、保健室に寝に行きたい…。
「えっと、じゃあ…私も書くよ!」
「…は?」
右側を書いていた僕の左隣に、鉛筆を持った彼女が膝をつく。
「このノートに書いてある通りにやればいいんだよね?」
「そうだけど…」
「頑張ります!」
板の前に広げてあるノートを見ながら、彼女は震える手で鉛筆を動かしていく。…いや、不安しかないんだけど。
「無理するなよ。看板は僕だけでいいから」
「でも、やっぱりイッチー1人じゃ大変だよ。わ、私も見て書くくらいできるから!」
いやだから、手ガクブルじゃん。顔面蒼白じゃん。説得力皆無にも程があるでしょ。
「…ちなみに聞くけど、こういうの作った経験は?」
ピタッ、と彼女の動きが止まる。ああ、ないのか…
「そ、その…頑張ります!!頑張りますから…っ」
なんでそこで涙目になるんだよ。調子狂う…
「答えになってないけど…まぁいいや、どうせ下書きだし。じゃあそっちは任せた」
「!は、はいっ!」
お次は満面の笑顔。…どんだけ手伝いたいんだか。
っていうか…当たり前だけど、距離が近いな。
「♪〜♪〜」
書いてるうちに慣れてきたのか、そのうち鈴は鼻唄を歌い始める。
「…楽しそうだね」
「うん、楽しくなってきた!」
…皮肉のつもりだったんだけど流された。
意識するだけ無駄か、と僕は作業に集中する。
それにしても近…
「イッチー、消しゴム借りていい?」